松山市文化創造支援協議会

INTERVIEW

まつやま文化人録

  • VOL.006
  • 2020.05.03 UP
岡田 正志 さん
伊予源之丞保存会
三津浜の宝来屋新三が立ち上げた「宝来座」を起源として始まったのが伊予源之丞です。

明治時代からの起源を持つ伊予源之丞。独自の人形浄瑠璃の文化を発展させてきた淡路島から松山・三津へやってきた一座がそのルーツだといいます。戦中を挟んで一度は途絶えた伊予源之丞ですが、昭和三十年代に再び火が灯されます。江戸時代から、明治、大正と人々の娯楽であった文楽を、現代の芸能としてどのように未来へ継承していけるのか。曾祖父の世代から伊予源源之丞の復興に携わる岡田さんは大学生ら若い人たちとのコラボレーションを構想中です。今年度は、松山ブンカ・ラボの文化サポートプログラム「らぼこらぼ」として、文楽をわかりやすく伝えていく事業を展開する予定の伊予源之丞保存会・岡田正志さんに、歴史背景、演目や人形遣いのことについてお話をうかがいました(メンバーの岡田英二さんも同席くださいました)。

  • 昭和34年に発足「伊予源之丞保存会」

    三津浜の宝来屋新三が立ち上げた「宝来座」を起源として始まったのが伊予源之丞です。明治から大正にかけて県内各地や九州、朝鮮にも興行していたそうです。その後、途絶えていましたが、昭和10年に現在の「伊予源之丞」に改称して、「宝来座」の流れを汲んで引き継ぎました。戦争があって中断となっていたところ、戦後に「宮前文楽保存研究会」が立ち上がり、昭和34年に「伊予源之丞保存会」と名前を変えて私たちに引き継がれています。右から岡田正志さん、岡田英二さん。お二人とも保存会メンバーで従兄弟同士。

    私の曾祖父、両親、親せきがこの保存会で文楽をやっていました。当然、子どものころから文楽は近い存在でしたが、眺めている程度でしたね。10年くらい前に父親が病気となり人形の頭(かしら)を持つ人がいなくなってしまいました。若い人は誰もいなくて、私がやることになったんです。現在のメンバーは13人います。とはいっても、毎回の稽古に顔を出すコアメンバーは 6、7人くらい。年代は40~70代で、地元の古三津の仲間たちです。若い人たちにも入ってほしくて、職場やお祭りの時などに声をかけるんですけど、なかなか…。

  • 呼吸を合わせることによって生まれる臨場感

    私の父の時代はテープの演奏で演じていました。いまでは太夫の人、三味線の人が入ります(ただし少し前に太夫の人が抜けてしまい、民謡をやっている人が代わりに入って育成中です)。やはり生の演奏は全然違う。観ている人にとっても迫力がありますし、人形の動きと語り人で呼吸を合わせることによって臨場感も出てきます。

    文楽は人形1体を(主遣い、左遣い、足遣い)の3人で動かし、そこに太夫、三味線が加わって上演します。人形が大きいと当然動かすのは難しくなります。特に手の動かし方が複雑になるんです。弁慶などはとても難しい。私たちの持っている人形で、他にはない珍しいものがあります。狐の人形です。目とか口とかが動くんです。松山の人形師面光が作ったものです。この人形は『玉藻前』(たまものまえ)という出し物で使います(『玉藻前』は平安時代、鳥羽上皇の寵愛を受けた美女で、正体は白面金毛九尾の狐というお話)。精巧な狐の人形。

    私たちがよくやる.演目は主に3つです。お客さんに一番ウケのよいのが慶事のときにやる『祝い大漁 戎(えびす)舞』という舞です。この出し物は自分たちで作ったオリジナルで、通常の舞とは違って、歌詞は同じなのですがアドリブが入ったり、リズムが違うんです。明治40年ころの「頭(かしら)」を今でも使っています。あとは、世話物の『傾城阿波鳴門』(けいせいあわのなると)と時代物の『鬼一法眼(きいちほうげん)三略の巻』です。特に『鬼一法眼三略巻五条橋の段』は有名で、牛若丸と弁慶の橋の上での決闘の話です。当然ながら牛若丸と弁慶の人形2体が必要で、動かすのにも技術がいります。これらの人形は最近修繕したばかりで、衣装も京都で仕立てているんですよ。これをぜひ若い人や学生のみなさんとやってみたいと思っています。

  • 文楽の楽しさを若い人に知ってほしい


    今年、らぼこらぼ(松山ブンカ・ラボ 文化サポートプログラム)に採択されました。若い人と取り組んでいく事業プログラムを実施していきたいと思っています。愛媛大学の学生さんや一般の方々に文楽の楽しさを知ってもらう講座やワークショップをするなどして関係を作っていき、数年後に一緒に上演することを目指していきます。やはり若い人にどうやって引き継いでいくかということが課題です。また観る人の興味を持ってもらうような取り組みもしていきたいです。松山ブンカ・ラボの方から、将来的に松山で活動する演劇の人とオリジナル作品を作ったら?という提案がありましたが、興味はありますね。

(取材:2020年3月12日)

岡田 正志

伊予源之丞保存会

1959年に愛好者、座員等が一体となって「伊予源之丞保存会」が結成され、現在の会員は11名。「伊予源之丞」を広く一般県民に公開し、古典芸能に対する理解と認識を深めるとともに、その保存伝承を図るために、地域の三津恵比寿神社や近郊の寺での披露、文化祭や公演等への出演、伝承者等の育成、用具等の整備、映像記録等の作成等の事業を行っている。

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