- VOL.003
- 2020.03.01 UP
- 寺谷亮司 さん
- 愛媛大学社会共創学部地域資源マネジメント学科教授
都市文化の重要な要素のひとつです。」

松山ブンカ・ラボのラボ長でもある寺谷亮司先生。ご専門は地理学ですが、世界の酒文化、盛り場についても重要な研究テーマです。札幌、仙台という充実した酒場のある街での学業、研究生活を経て、松山は愛媛大学へ赴任されたのは必然かもしれません。50万都市として全国でも有数の酒場、盛り場を持つ松山において約30年、寺谷先生はアフリカの街々を研究しながらも、愛媛県内の蔵元を訪ね地域の酒文化、醸造方法等と向き合ってきた経験を活かされ、愛媛大学オリジナルの日本酒造りを手掛けておられます。酒について大いに語っていただきました。
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気候風土と密接な関係にある酒
私は北海道の生まれで、小樽、滝川、紋別などで生まれ育ちました。北海道の炭鉱や酪農地帯で特に飲まれるのは度数の高い焼酎なんですね。父親は教員でしたが酒飲みで、酒はいつも身近にありました(笑)。専門は地理学で、新開地、北海道における都市網を研究していたんです。アフリカの都市の研究をはじめたのは北海道と同じ新開地としての共通点があったからです。アフリカでは家々で醸造した酒を随分見てまわり、飲み方、作り方を研究してきました。
アフリカもそうですが、飲み屋街というのは都市文化の重要な要素のひとつです。ちなみに松山の酒場の特徴はとにかくエリアが東西に広いことです。大街道の西側は料亭がたくさんありました。東側は町屋起源でゴチャゴチャしていてピンク街もありますね。さらに東側にいくと新しい飲み屋ビルも多く、東側の方がいわゆる飲み屋街ですね。
アフリカで現地の酒を調査する寺谷先生(写真提供 寺谷先生)
最近は平均化した飲みやすいお酒が多くなってきて地域性がなくなってきています。愛媛の酒は従来甘くてちょっとうすめなんです。温暖だから一気に発酵するんですね。そうすると淡麗甘口となる。東北とか雪国は低温で発酵していくからもう少しキリッとしています。あるいは内陸は保存食を食すから酒味も濃くなります。だから、お酒というのは土地土地の気候と密接にかかわっていますし、それと関連して食文化とも関係しています。地元の酒と郷土料理で冠婚葬祭をする。そういうものです。愛媛の甘くてうすめのお酒は瀬戸内の魚そのものの素材の味を活かすから合っているんですね。 -
文化資源を活かしたまちづくり
社会共創学部の初めての卒業生を出す年の記念ということもあり、大学オリジナルの日本酒を造りました。名前は「愛され媛」。純米吟醸です。
愛媛大学で日本酒を造るのは初めてではありません。10年前くらいから7年間、東温市にある蔵で造っていました。今回は内子町の千代の亀酒造で仕込んでいます。この蔵元は創業家からオーナーが代わって地元の民間企業等が継いでいます。愛媛には40くらい蔵があるんですね。それでも廃業するところが増えてきて、蔵元は少なくなってきましたから、先例となる蔵元の存続策だと思います。今回の酒造りは学生の有志が約30人、教員も5人くらい協力してくれて、コメ作りから、ボトルのラベル作りから、販路まで、醸造以外のすべての工程を手掛けています。ラベルは芭蕉和紙を使っています。芭蕉は南予のお盆には欠かせない植物で、芭蕉の葉に料理を盛り付けるんです。この芭蕉を和紙原料とする研究開発を担ったのが、産業イノベーション学科の福垣内暁先生です。バナナ科の葉で、薄くて丈夫、繊維が細かくて伸びる。だから加工しやすくラベルにも適しています。ラベルのデザインも学生がしました。
四合ボトル。緑色と黄色の芭蕉和紙を重ねて貼った手書きラベルは限定1000本。愛媛大学生協ショップ「えみか」にて販売中。
酒蔵も芭蕉もそうですが、有形無形の文化資源を活かしてまちづくり、地域活性を実現できるように、学生の興味が向かうような機能をブンカラボには求めていきたいですね。
写真:松山市役所 文化・ことば課 浦川健太
(取材:2020年1月14日)
寺谷亮司
- 愛媛大学社会共創学部地域資源マネジメント学科教授
1960年北海道小樽市生まれ。東北大学理学研究科博士後期課程修了。理学博士(東北大学)。
北海道大学文学部助手、愛媛大学法文学部教授などを経て、現在愛媛大学で社会共創学部教授、地域創成研究センター長、国際連携推進機構モザンビーク交流推進班長を兼任。
専門は、人文地理学、東・南部アフリカ都市、世界の酒・盛り場、まちづくりの研究など。
今世紀は、質の高い経済活動に直結する「文化を創造する都市」が発展すると確信している。

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