松山市文化創造支援協議会

JOURNAL

特集記事

2023.03.08 UP
VOL.
035
column
違うところから始める

田中真実(認定NPO法人STスポット横浜)

  • 松山ブンカ・ラボ「まつやまアートカレッジ」では、認定NPO法人STスポット横浜の田中真実さんによる「アートと福祉学科」を2022年度に3回にわたり開催しました。今回の特集記事では、「アートと福祉学科」を振り返りつつ、2022年度におこなったワークショップについてご紹介いただきます。

  • 違うところから始める

    まつやまアートカレッジ「アートと福祉学科」の依頼があった時に、さて何から話をしようかなと考えたのですが、気がついたら、自分が仕事をするきっかけからお話することとなっていました。STスポット横浜で仕事を始めてからもう14年。こんなに学校や福祉施設に行くことになるとは、思ってもみませんでした。考えていることや、やっていることが変わっているところもありますが、ずっと根っこにあるのは、どうしたら幸せに生きていけるのか、ということです。私が考える幸せというのは、不安がなく、選択することができ、頼ったり頼られたりする人たちがいることなのではないかと最近は思っています。そのための術として、アート(芸術と文化)に期待があるので、私は活動を続けているのだと思います。

    まつやまアートカレッジ「アートと福祉学科」1回目の様子

    まつやまアートカレッジ「アートと福祉学科」2回目の様子 ゲスト:中村麻美(OUTBACKアクターズスクール校長)

    2022年度は「よこはまのまなびば」という取組を進めてきました。芸術文化の社会教育としての役割を改めて考える機会として、ワークショップの実施と社会教育の専門家との対話を行いました。ワークショップでは【障害のある人たち】【外国にルーツのある人たち】の2つテーマを設定しました。この2つのテーマはいずれもSTスポット横浜の教育事業や福祉事業を通して出会い、気になり続けてきたものです。気になりつつも、ふだんは学校の授業や福祉施設の日中活動など、ある枠組みの中での関わりとなっていました。今回は、そういった枠組みを越えて、より自由な場づくりを試みました。

    まつやまアートカレッジ「アートと福祉学科」3回目の様子

    私が担当した【障害のある人たち】とのワークショップは、NPO法人レスパイト・ケアサービス萌のみなさんと協働した取組です。レスパイト・ケアサービス萌(以下、萌)は、医療的ケア児を中心とした障害のある子どもたちの訪問看護などを通して、QOL(生活の質)をあげる活動をしています。障害のある人と一口にいってもその状況や状態は多様です。医療的なケアが必要な子どもたちは、車イスやストレッチャー、人工呼吸器を使用していることも多く、外出には多くの準備が必要です。コロナ禍においてはさらに慎重にならざるを得ない状況に置かれています。今回のワークショップでは、参加者のみなさんが不安を少なくして参加できるように、野外でバリアフリートイレがあり、控室も確保できる場所を会場とし、ひとりひとりの状況になるべくあわせられる環境を整えました。当日も萌のスタッフのみなさんがたくさん参加してくれて、子どもたちや保護者のみなさんの安心につながったと思います。

    STスポット横浜による福祉施設とのワークショップの様子(2022年度、アーティスト:岡田智代) はじめましてのごあいさつ 撮影:井上亮

    STスポット横浜による福祉施設とのワークショップの様子(2022年度、アーティスト:岡田智代)寝っ転がってみる 撮影:井上亮

    当日は、お天気にも恵まれ、10月ではありますが、汗ばむぐらいの陽気でした。ダンサーの岡田智代さんが、言葉とからだでひとりずつと挨拶をしながら、ゆっくり動き始めます。全員で同じことをするのではなく、それぞれの興味関心から過ごし方を見つけていきました。原っぱに寝転がる人、葉っぱを拾う人、記念写真を撮る人、静かに日陰に佇む人。同じ時間を共有しながらもそれぞれの小さな選択が重ねられていました。時折、輪になったり、岡田さんとデュオになって踊ったり、近づいたり離れたりを繰り返しながら、生まれてくるささやかな表現を味わいました。公園のような場所だったこともあり、いつまにかその場にふらっと遊びにきた近所の子どもたちやスタッフの子どもたちも加わって、自然といろんな人たちが混ざりあう場になっていました。
    終了後に、萌のみなさんと岡田さん、私たちSTのスタッフで振り返りを行った際に、「決まったプログラムではない、即興的な場づくりがよかった」という話がありました。決められた内容を進めることの良さもありますが、どうしてもプログラムに参加者が合わせられていき、その場で起こる偶発的な出来事に対応できなくなってしまう恐れもあります。岡田さんはさまざまな想定や準備をした上で、目の前の人や状況に最適な関わり方をその都度提案していました。これは萌のスタッフのみなさんも同様で、寝っ転がる人たちがでてきたところでさっと敷物を出したり、率先して楽しんでいたり、その場にいる人たちが何が必要かを考え、自主的に行動を起こしていた場面がいくつもありました。芸術文化の専門性のある私たちと障害福祉の専門性のある萌のみなさんが、お互いに知恵を持ち寄って、頼り合いながら活動ができたことも大きな収穫となりました。

    STスポット横浜による福祉施設とのワークショップの様子(2022年度、アーティスト:岡田智代)波を感じる 撮影:井上亮

    STスポット横浜による福祉施設とのワークショップの様子(2022年度、アーティスト:岡田智代)大きな輪になる 撮影:井上亮

    今回の取り組みは、文化施設の地域で行われるよくある自主事業のひとつとも言えます。地域の中ですでに活動している人たちはたくさんいて、一歩踏み出して関わりあっていうことで、少しずつ社会は変わっていくのではないか、そんな自信をもらえたような機会でした。違う分野の人たちとの関わりは、大変なこともありますが、対話を繰り返す中で、共通点を見つけたり、自分たちの活動を振り返る機会にもなります。違いがある、そのことを前提に、その人をその人として丸ごと関われるアートを介して、小さな実験をこれからも起こしていきたいと考えています。

  • 執筆者プロフィール

     

    田中真実(認定NPO法人STスポット横浜 副理事長・事務局長)

    1984年東京生まれ。大学で地理学、大学院で都市計画を専攻し、コミュニティや地域文化に興味を持つ。2008年STスポット横浜入職。文化施設や芸術団体と学校現場の連携プロジェクトを担当。2020年4月より、神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターの運営を開始。芸術文化分野での中間支援のあり方について、模索している。

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