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2020.02.25 UP
VOL.
007
report
まちと文化とアートの学校2019第5回「福祉でもないしアートでもない」
(ゲスト:山森達也さん/2019年11月16日)

越智孝至(NPO法人シアターネットワークえひめ)

  • 福祉でもないしアートでもない

    静岡県浜松市の街中にある障害福祉サービス事業所「たけし文化センター連絡所」を運営するNPO法人クリエイティブサポートレッツ(以下レッツ)の活動について、同NPOに2019年5月まで在籍していた山森達也さんがさまざまなエピソードや映像を交えながら紹介してくれた「まちと文化とアートの学校2019第6回」。テーマは「福祉でもないしアートでもない」。障害福祉サービス事業所の話なのになぜこのようなタイトルなのでしょう?きっとそれは、レッツの活動が「型破り」で「福祉」や「アート」という枠では収まりきらないからに違いありません。

    2019年11月16日、愛媛大学にて。自由闊達に話す山森達也さん。

  • NPO法人クリエイティブサポートレッツの日常

    例えば、石を入れた入れ物をひたすら叩き続けるひと。あるいは道路でスタッフに水をかけられ嬉々と過ごしているひと。大好きな家電を荷車に積み上げて町中を押して歩くひと。特別支援学校では「問題行動」とされるこれらの行動を、好きなだけやり続けています。なぜなのか?山森さんは、重度の障がいを持つたけしさんの母親でもあるNPO法人代表の久保田翠さんの言葉を紹介します。

    「たけしは、自分では食事・排泄ができず、多動で、人の話を聞けない。12年間通った特別支援学校の訓練で獲得できたものもひとつもなかった。でも、入れ物に石を入れて叩き続けるという行動だけは手放さなかった。これは彼が一番大切にしていること。そして、やりたいことをやり切る熱意は新たな文化創造の軸だと捉え直したから」。

    学校から見れば「問題行動」でも、視点を変えれば「文化創造の軸」。だから「たけし文化センター」と命名しています。「障がい者文化センター」だと「障がい」に焦点が当たりますが個々人に注目してほしいから、たけしさんという個人の名を冠したと山森さんは話します。

    入れ物を叩き続けたり、水遊びし続けたりする行動を彼らの表現であると捉え、とは言ってもアーティストの表現とは違うことを踏まえて、レッツでは「表現未満、」という言葉を作り、誰もが持っている自分を表す方法としての表現を文化活動だと捉えるというコンセプトを打ち出しました。そこには誰かの行動を取るに足らないと切り捨てるのではなく、尊重していく文化を育てたいという想いが込められています。

  • ひとりひとりに寄り添い肯定する

    レッツでは他に、たけし文化センター連絡所に観光に来てもらう「タイムトラベル100時間ツアー」や、たけしさんらをスタッフと共に派遣する「かしだしたけし」、利用者の日常を映像に収めてyoutubeで放送する「のヴぁテレビ」などの活動を行っています。タイムトラベル100時間ツアーはプロモーション映像「光を、観る」(佐々木誠監督)としてyoutubeで観ることができます。

    利用者の日常を撮影した映像を見せながら山森さんは、「佇まいがいい」「寝っ転がっている姿がいい」と愛おしそうに語ります。いまはそんな風に語ることのできる山森さんも「初めは話しかけても伝わらない。笑いかけても笑い返してくれない。どうしていいか分からない時期があって、どうにかコミュニケーションを取れるようになって仲良くなったと思っても、時には関係が面倒になることもある」ことがあったそうです。そのようなプロセスを経て、個人個人に向き合うことができているからこそ、ひとりひとりの存在を肯定する活動が生まれてくるのでしょう。

    もし、これらの活動が「型破り」に見えるとすれば、私たちの社会が、文化が、個人のあり方を肯定していないからかもしれません。

    (レポート: NPO法人シアターネットワークえひめ越智孝至 )

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