松山市文化創造支援協議会

INTERVIEW

まつやま文化人録

  • VOL.015
  • 2026.02.25 UP
白晃 さん
書家
「自分を誤魔化さず、あえて本気で向き合って掘っていくと、外側じゃなく “自分自身が宇宙”って気づきました。そこが一番広くて深くて面白い」

ギャラリーの個展やコラボ展で、白晃さんの作品と出会うと、墨で書かれた文字からさまざまな感情を想起させられた記憶があります。時には寄り添い、そっと佇んでいたり、時には力強く、作品によって存在のありようがさまざまで、人と出会うような感覚になりました。そんな「書」の作品を生み出す白晃さんにお話を伺いました。

インタビュアー:宮本舞
取材協力:3ta2 gallery

  • 「書くこと」との出会いから、創作に至るまで

    『同じ船に乗る』2021年に3ta2 galleryで開催した作品展で象徴となった作品

    『同じ船に乗る』2021年に3ta2 galleryで開催した作品展で象徴となった作品

    —いつ頃から書道を始められたのでしょうか?

    白晃:お習字自体は、小学2年生の頃から始めました。父の職場の上司が教室を始めるというので習い始めて、その先生の最初の生徒です。当時、お習字が好きだという自覚は全くなかったのですが、学校でも “もじのけいこ”が好きだったし、しんと静かなところで字を書くのが心地良くて、教室に通うのもいやではありませんでした。小学校2年生以来、毎週金曜日に通い、27・8歳位まで通っていました。部活、受験期、就職と色々な時期がありましたが、お習字は、唯一ずっと続けてきたことです。私にとってお習字が日常にあるのが普通のことでした。それが当たり前すぎて、先生が教室を閉められることになった時、それを聞いて初めて「お習字が好きだったんだ」と自覚して涙が溢れました。

    —「白晃(はっこう)」さんの雅号の由来は?

    白晃:26歳の時、先生から「あなたの自分の字が生まれてきているから、名前(雅号)を付けなさい」と言われて…。白い日の光、そんな字が書けたらという意味合いで白晃とつけました。当時、先生は「これからは、自分の楽しみのために書きなさい」と、お話しくださいましたが、今、思えば「自由にしなさい、自分の楽しいと思う方向に進んで行きなさい」ということだったのかなと思います。

    —創作活動に至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

    白晃:雅号はつけたものの、教室がなくなり、しばらくはお習字から離れていました。ちょうど家庭を持ち、子どもが生まれて。周囲ともあまり悩みを共有できず、子育てがしんどい時期があって…。何がしんどいのか分からないまま、手をもがれたような感覚になることもありました。それである夜、子どもが寝た後に、習字道具を広げて、ちょっと字を書いてみたんです。この時、初めてお手本を見ずにいろいろと書いてみたら、何にも邪魔されず自分だけの時間を過ごすのが楽しくて。小学生の頃、先生に添削してもらって気持ちが「スーッ」としたときと同じ感覚になりました。そこで「書は自分にとって必要なものかな」と改めて感じて、活動が続いています。

    (左)茶道の掛け物として制作
    (右上)祝谷にあったCAFE NEW CLASSICで初めて個展を開催(2007年)
    (右下)3ta2ギャラリーでの個展(2021年)

    NIPPONIA HOTEL大洲 城下町に展示されている作品『山-Mountain-』
    大洲の地場産業である和蝋燭を使って制作

  • 「自分は自分でいい」と思わせてくれる場所

    —国内外各地のアートフェアに出品なさっていますね?
    白晃:2015年以降、3ta2 galleryさんに誘っていただき、国内外のアートフェアに出品させていただくようになりました。2024年までは毎年、各地のフェアに新作を出品して、コロナで開催されなかった時以外は、ずっと会場に足を運んでいました。最初は、神戸のアートフェアに誘われて、次は福岡へ。福岡で誘われて名古屋へ、そのうち金沢でもアートフェアが始まって、台北、東京の百貨店、県外のギャラリーさんでの個展など、どんどん繋がっていきました。年に4・5カ所でアートフェアが開催され、そこに10年近く参加し続けて、いろんなことを学びました。
    会場では、作品をご覧になってくださる方々とお話しをさせていただきますが、初めて出会った人との会話の中で、その人の想いと作品との化学反応があって、作品がお嫁に行く…。それは本当にありがたい、人生のご褒美のような瞬間です。同様の化学反応が、他の作家さんとお客さんとの間で起こる瞬間にも遭遇し、それも刺激的でした。アートフェアでの出会いは、刺激にも勉強にもなっています。

    「アート高雄(ART KAOHSIUNG)」(台湾)で現地の通訳と

    「初(うい)」書家白晃×画家OZ-尾頭-山口佳祐
    アートフェアをきっかけに名古屋で行われた、画家とのコラボパフォーマンス(2023年)

     

     

    福岡のアートフェア参加時に、福岡駅前で行ったライブパフォーマンス

    白晃:各地のアートフェアに参加して価値観の近い作家さんが、他の土地で日々頑張っている姿を目にすると、モチベーションも上がります。さらに出向いた先で、その土地の美味しいものを食べると「生きているな」と実感できますね。その土地自体が持つ力を吸収することで、より感覚も敏感になって、刺激にも癒しにもなっています。
    —白晃さんにとっての表現ツールとは?作品はどうやって生まれるのでしょうか?
    白晃:私の根っこは「言葉」による表現なのだと思います。やっぱり「文字を書く」のがルーツになっています。 伝えたいことって、しゃべって伝えるのが、一番強く早く伝わりますよね。私も心を許せる友人との会話では、人がそれぞれ持つ思いを確認できるし、安心感を得られていると思います。 それでも言語化できないもの、心の中にモワッとあるものについては、その解像度を上げるために、思いついた事をどんどん書いていきます。書く作業はしんどいけれど、それをしないと見えてこないこともあります。それは、「書」にする前の文字や文章です。 そして臨書をします。つまり、お手本を見て書きます。 私にとって臨書の時間は、呼吸をするのと同じようにお習字をやることで、心地よく過ごせる自分だけの時間です。一旦フラットな目を持ち、心を沈めて、呼吸を整えているのだと思います。

    「これは、臨書をしてその日の1番を集めてそれを解体し、再構築して制作した作品です。新たにチャレンジしました」

    フラットな状態から出てきたエッセンスの中で、自分にとって「今、一番伝えたい」と熱があるものを濾過し、抽出したものが表現になっていく。そこには客観性や普遍性も必要で、出来上がりのボリュームに対してのバランスも常に考えています。 臨書と作品制作は「書くこと」の両輪で、どっちも好きで両方あるから、やれているんじゃないかなと思います。
  • 文字は暮らしと親和性があって最も身近な創作の種

    —「書」のワークショップ(以下WS)もされていますね?

    白晃:WSは一番長く続けている活動で、WSに来る人が何も背負わずにいられる「大人のサードプレイス」みたいな場が作れたらいいなと思っています。私の役目は「いいね」と、背中を押すこと。その人にないものを磨くのではなく、今あるものを「それでいい」と認める後押しができたらいいなと思っています。創作の芽は、もともと皆さんお持ちです。それぞれに良いものを持っていらっしゃるので、毎回感動しています。私が学ばせてもらうこともたくさんあり、そこもWSの醍醐味です。毎回メンバーも変わりますが、一期一会を大切にしています。

    初個展の開催からオーナーと縁がある「凸凹舎」でWSを開催。その時期に感じる季節の言葉を書いている

     —ワークショップを通してどんなことを伝えたいですか?また「書くこと」の魅力は?

    白晃:できるだけ「書」を文化として残していきたいと思って活動しています。「書」に興味を持ってもらうために裾野を広げて、「書」に接したことがない人たちにも「書くこと」の素敵さを伝えられるといいなと思います。大きく言うと、文化の継承の一助になれたらいいですね。 表現のきっかけとして「文字」は、私たちに一番身近な存在で、誰もがとっつきやすいと思います。絵は、描かないかもしれませんが、字はみんな書きますし、物事はすべて言葉で考えますね。だから一日中ずっと言葉はそばにあって、一番身近な創作の種だと思います。 字を見ない日はないと思いますし、暮らしと親和性があるものなんです。切り取って飾って愛でるだけの存在ではなく、字はもっと、生活の中にたゆたっています。そこから何かを書こうと心の中にあるものを集約してどんどん書いていくと「ああコレだったのか」と、自分が何を思っているか、何を大事にしているのか気づかせてくれるのが魅力ですね。

    さらに日本語は、文字一つずつに意味があって、特に漢字は直接的に伝わってきます。この国に生まれ育った因果がきっとあるのだと思います。

  • 少し立ち止まって自分を掘り下げる

    —最近の過ごし方は?
    白晃:この1、2年は少し歩みを緩めています。今までは、“とにかく出ていく”、“何かに出会う”、“刺激を受ける”ことが創作の源になるものだと思っていましたが、今は、“止まって自分を見つめる”ことも同じくらい大事だと感じています。止まるのは不安ですが、あえて不安を選んで立ち止まって、自分の中のモヤッとする不満や問題みたいなものについて考えることが多いです。
    自分の内側についてよく考えてみると、社会の問題とクロスしていることに改めて思い至ります。自分を誤魔化さず、あえて掘り下げる。そうすると、“自分の外側が宇宙”だと思っていたけれど、結局は“自分自身が宇宙”で、そこが一番広くて深くて面白いことが見えてきました。 と、いうことは、あの人にも、この人にも宇宙があるってことです。尊重しあえる社会の中で、お互いの宇宙に共鳴し合えるところがあればいいなと思います。砂金みたいに濾過したら小さい粒だけど、「ああコレか」というものがフッと降りてくることがあります。それを磨いて、磨いて、磨いた先にあるものを「こんなのどう思いますか?」と示し、人と共鳴できれば、やっとそこが自分や作品の居場所になるのかなと思います。
    ―⽴ち⽌まってみて、今後の創作が変わる予感はありますか?
    ⽩晃:作品制作は、自分の内面をただ表現するだけではなく、⾃分の中の問題解決のために「こうなりたい」という思考や⾏為をどんどんひっくり返していくものだと思い始めました。今は、モチベーションの⽅向が、より⾃分の中にあって、熟成させていってもいいのだと感じています。だから書いている時間も書いていない時間も⼤事だし、⽣きることを含めて在り⽅⾃体がアートだと思います。
    ―存在そのものがアート?
    ⽩晃:表現する⼈は、みんなそうなのだと思います。その⼈のある⾏為によって、持っている思考をキュッと転換する、その先にできたものを「こんなのあります」といってみせて、そこに共感が⽣まれるっていうことがアートだと思います 。そういうことが細々でも、でき続けたらいいなと思います。

(取材:2025年10月21日)

白晃(hakko)

書家

1971年 愛媛県松山市生まれ。
1989年愛媛大学法文学部法学科卒。
8歳より書を学ぶ。墨と筆を使い、文字や言葉を通じて「心・今」を表現する作品を制作。最近は日本の良さを伝えるために、茶室のしつらえや空間展示、墨と蝋を用いたコラージュ作品なども手掛けている。

BACK NUMBER

バックナンバー

    • VOL.016
    • 2026.02.26 UP
    おおにしのぞみさん
    (糸で絵を描く作家)糸と画 あまぐも
    • VOL.015
    • 2026.02.25 UP
    白晃さん
    書家
    • VOL.014
    • 2025.10.16 UP
    高岡大輔さん
    ライヴ・アースまつやま代表
    • VOL.013
    • 2025.03.05 UP
    徳永高志さん
    NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ理事長
    • VOL.012
    • 2024.12.27 UP
    金子敦子さん
    金子音楽教室・作曲家・編曲家・アカンパニスト
    • VOL.011
    • 2024.12.03 UP
    高橋砂織さん、宇都宮忍さん、得居幸さん、合田緑さん
    yummydance(振付家・ダンサー)
    • VOL.010
    • 2022.03.04 UP
    越智政尚、Bonamiさん
    本の轍
    • VOL.009
    • 2021.10.20 UP
    橋本達也さん
    シネマルナティック支配人
    • VOL.008
    • 2021.09.30 UP
    EKDさん
    ミュージシャン
    • VOL.007
    • 2021.01.12 UP
    神山恭昭さん
    絵日記作家