- VOL.011
- 2024.12.03 UP
- 高橋砂織さん、宇都宮忍さん、得居幸さん、合田緑 さん
- yummydance(振付家・ダンサー)
松山生まれのコンテンポラリーダンスカンパニーyummydance(ヤミーダンス)は、今年で設立25年を迎えました。1999年から始まった松山市・財団法人松山市施設管理公社主催で行われた「松山ダンスウェーブ・プロジェクト」をきっかけに誕生。当時、松山の姉妹都市ドイツ・フライブルクの市立劇場で芸術監督をしていたアマンダ・ミラーを招き、オーディションを兼ねたワークショップで選ばれたメンバーで設立されました。”yummy”とは「おいしい!」という意味で、アマンダ・ミラーが名付け親。メンバー全員が、振付、構成、演出を行うスタイルで、豊かな味わいのオイシイ作品を国内外のさまざまな場所で届けてきました。
身体を使ってあらゆる表現の可能性に挑むyummydance。身体で言葉にならないコトバを発し続ける彼女たちの脳内は、いったいどうなっているのか?その思考をちょっと覗いてきました。
インタビュアー:宮本舞
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一段と旨味が増してきた最近のyummydance
―ちょうどコロナ禍の2021年に新作公演「グッド・バイ」を上演したのは、まだ記憶に新しいですが、yummydanceが企画から作品を舞台にあげるまで、どのように進めていくのですか?
得居幸(以下・幸):まず誰が創るのかを決めて、その作者がテーマを決め、他の人がダンサーの立場で参加するのが基本です。1人で創ることもあれば、4人で創ることも。振付する側とされる側になりながら、これまで様々な作品を発表してきました。9つのエピソードを一つの公演にまとめた「グッド・バイ」の公演は、その集大成のような形で公演全体を4人で創り上げていきました。
高橋砂織(以下・砂織):当時、企画初期はコロナ禍ではなくて、長尺の作品をみんなで創るプランもありましたが、コロナ禍の制限が出てくるうちに複数のエピソードを連ねていくアイデアが生まれました。
宇都宮忍(以下・忍):公演の大きい柱としてタイトルを「グッド・バイ」に決めました。―タイトルを見て、yummydance解散の噂が流れましたね(笑)なぜ「グッド・バイ」に?
幸:いろいろな節目でもありました。結成20年という節目も超えたし、解散するわけじゃないけど、解散してもいいくらいの気分で。「コロナの時代バイバイ、今までの20年はもう振り向かなくていいね」というような…。
忍:ネクストステージに行くためにも、今までに対しての「グッド・バイ」だったかもしれないです。―近年は松山近郊の店舗やカフェなどでのパフォーマンスをあちこちで上演されていますね。
合田緑(以下・緑):最近はお客さんとの距離の近さを大事にした小さな会場でのパフォーマンスが増えています。今までは、長尺の作品を県外や国外に持っていってホールで上演する時期が長く、それもやりがいがあったのですが、近年はメンバーそれぞれのライフスタイルの変化も加わり、劇場以外の店舗などで自主企画やコラボ企画をやる機会も増えていて、それがとても面白いです。時代の変化と共に、今だからこそできる事を模索して、どれだけ濃く展開できるかなと、掘り下げながらやっています。
―カフェなどではどんな形でパフォーマンスをしていますか?
忍:振付作品を踊ったり、完全に即興で踊ることもあります。即興は、20曲くらい候補の曲をセレクトしておいて、タイミングや誰が選曲するかが即興だったり、最初と最後の曲だけを決めてやることもあります。
緑:でも踊りは全く決まっていないんです。それが逆にスリルがあってよくて。25年やってきたお互いの信頼があるからできることですね。
砂織:生みの親であるアマンダ・ミラーとも、私たちは即興のワークから始まっているから、やっぱり大事にしたいです。
緑:アマンダは、世界で活躍する振付家である彼女のアーティストとしてのエッセンスを、沢山私達に教えてくれましたが、中でも集中的な「即興」のワークは特に印象深く、今も私達の大切な基礎の1つになっています。
砂織:だから振付作品でも、まるで即興のような感覚の作品をやっていきたいっていうのがあります。
緑:振付作品は創っては壊してを繰り返し、練りあげて創作する一方で、即興は「いまここ」の場に、全部手放して身を委ねて立ちます。双方は両極にあってそれぞれの良さがあり、その両方の経験を共に重ねてきた4人で即興をやると、より活性化されていきます。カフェライブをスーパーたかすかでやった時も、打ち合わせが多くて、事前にあまり一緒に踊っていなかったのですが、言葉じゃないところで身体を突き合わせた時に、「あっ、ヤミーダンスめちゃ久しぶり」って思いました。
幸:やっぱり!?私も本当に思った。「久しぶりみどちゃん」って。
緑:その時の緊張感や、お互いの通い合いが、見ていたお客さんにも、何かの出来事として感じていてもらえていたらうれしいですね。 -
作品創りと即興ダンスの謎に迫る
―では振付作品は、何もない所からどうやって創っているのでしょうか?
全員:それができんのよー(笑)
幸:ちょっと創る事から離れていたらもう(創作脳が)遠ざかります。「どうやって創るんだったっけ?」と、サボった分だけ動きの発見に時間がかかりますね。ソロ作品は、お互いに見せ合うこともありますが「まだ最後まで出来ていないけど」と言い訳しながらメンバーに見せています。
砂織:辛口だったり、この方向で良いんじゃない?と意見をもらうことで軌道修正しながら進むこともできるし、やりたいことを試して絞り込むこともできます。終着点に向かうための意見を出してくれるので、何を言われても信頼感がありますね。
緑:お客さん代表みたいな視点で感想を伝えますが、それを取り入れるかどうかは自分次第です。
幸:創る側の人から何を言われても、ブレない軸をみんな頑なに持っています。―見る側からすると軸を見つけるのも大変そうですが。
幸:軸は少しずつ太くなっていく感じです。最初は透明に近い線みたいなものから、やりたいものがどうすれば形になるか試しています。私の場合、最初から「これですよ」みたいなものは創れないです。まず即興で動いてみて、感想を聞いて、試した即興の中から少しずつフィックスしていくので、テーマはあるけど軸というほどのものは、最初は無いですね。
忍:確かに幸ちゃんは、ふわふわタイプで固めないですね。
幸:固めたら嘘っぽい。まだ感覚的なことをやりたいのに、先に軸を決めて「これっ」てやったら、その説明をしている気がするので、ふわふわしたところに触れるようなことをやって、少しずつ見やすくしていく感じです。
緑:人から意見を言われても変わらないものが、自分の軸になる、ということもありますね。自分とみんなの感想との間を行き来しながら創っていく感じです。一緒に作品を創ったり、踊ってきて、言語を共有してきたので、それぞれの感性は、全然違うけど、お互いを信頼しているからこそ感想や意見も受け止められます。
幸:メンバーの作品を見る側も他の人の作品を、自分色に染めようとは誰もしないです。
砂織:そこは放置(笑)
忍:結局は自分。中にあるものをどう出すか。
緑:けど、みんなで創る時は、みんなで迷子になることはあるけどね。
全員:めっちゃある。大迷子。(笑)
緑:4人で創るのは大変で、すり合わせもいるけど面白いものになりますね。一回公演にのせても、再演時に大きく創り変えたりもしています。幕が開く直前まで創り続けたり、本番1回目と2回目の間でもさらに創り変えたり。
幸:いいか悪いかは分かりませんが、飽きてしまうので仕方がないんです。飽きたものをやるほどつまらない事はないし、見ている人にもバレますね「もう飽きとるやん」て。―これまでの作品を再演って言われたら?
幸:どれもすぐには無理です。忘れていきますし。
忍:ウン十年前のものは、身体的にも感覚的にも今の自分とはフィットしないこともあります。
砂織:稽古の仕方にも変化があります。みんなで作った初めての作品「kNewman」(初演2004年)は、冒頭、みんなが立ってグラグラして倒れるというシーンで始まります。まず立ってグラグラを感じ、だんだん床との接点が減っていき、やがて踵が上がり、さらにグラグラが強まり最終的にバタンと倒れるというシーンなのですが、この冒頭のほんのわずかなシーンにめちゃくちゃこだわって何時間も身体を突き合わせて論議しあっていました。
忍:技術を習得するみたいな稽古でした。
砂織:そう、足を上げます、回ります。みたいな感じで。
忍:倒れるタイミングは曲で決まっていて。そのタイミングに合わせながら、よりリアルな転び方を追求していました。
砂織:リアルさがあってこその作品で、これダンス?みたいなことがダンスになっていった過程だったと思います。その後も、ワークショップで倒れる動きを小学生にやってみてもらったこともありますが、小学生ならではの身体の投げ出し方や、面白がり方がとてもリアルで興味深く面白かったです。
緑:いかにリアルかが大事で、身体でしかできないことを、やり方も分からないまま一生懸命やりましたね。「kNewman」はおばあちゃんになってから再演しようっていう話も出ていて、みんなで「衣装、捨てんとってよ」って言ったりしています。
幸:年を取ってナチュラルにユラユラして、すぐ立てないかも(笑) -
yummydanceのダンスを踊る
―リアルな表現といえば、コンテンポラリーダンスって何?って聞かれたら、yummydanceとしてはどう答えますか?
幸:「今」ってことが重要です。今、自分たちが興味を持っていて、身体を通してしたいこと。そこに「これはこういうターンだ」「こういう〇〇だ」という既存のテクニックは全く存在せず、自分の身体がそれを表現するために使われている、ということがダンスになっているようなものでしょうか。
砂織:最近は「まなざし」みたいなものもが鍵になると思っています。自分の身体を掘り起こしながら、その時に何を見ているか?それが動きのアイデアにもつながっていると思います。
忍:コンテンポラリーダンスって舞台に立った時に、ちゃんとそこで生きている人と、生きていない人の差がすごく出ます。そこで生きられるっていうことが、テクニック。大枠でコンテンポラリーダンスって言葉があるけど、それぞれが自分のダンスで、ヤミーがしているコンテンポラリーダンスは、ヤミーのダンスみたいな感じです。
幸:観客の視点で言えば、踊る人によって振り幅が広く、その人にしかできないことをやっているダンスだから、さまざまな作品を見れば見るほど面白いですね。いろんな感情が揺さぶられるのがコンテンポラリーダンスの良さだと思います。言葉にならないことを掴もうとしている作品がたくさんあるので、それを見てモヤモヤして帰るのもいいですね。「右」、「左」って決められない自分の感覚が作品を見たら何か腑に落ちる、自分の中にしかないモヤモヤとリンクさせる面白さが作品の中にあると思います。
緑:踊っていなくても、身体は自分とセットで隔てられないものです。だから、踊りには観客と共振する部分があると思っていて、何らかの形で、誰かの何かの感覚と触れ合うことができたら、踊り手にとっても幸せです。それが人前で踊る意味であって、晒さないと伝わっていかないです。踊ることは、晒す覚悟を持つことで、油断するとその感覚はすぐ途切れて、振り出しに戻ってしまうから、飽きないですね。幸:飽きないよね。(晒すことへの)恥ずかしさもなくなることはないです。20代の時は、50歳も近くなれば大丈夫になるだろうと思っていましたが、全然ですね。安心でもしようものなら、本当はないはずの型やパターンを作ってしまいかねないです。
砂織:舞台の終演後にみんなが感極まっていても、幸ちゃんはいつも「全然終わった感じがしない」って言いますね。
幸:実感がないまま本番が終わるんですよ。よかったか悪かったかも分からない。
緑:ただその「グワッてできた」、みたいなのはあるんじゃない?
幸:たぶんね。けど本番中に「グワッてやりよる」って思いながらはやってないですよね?コンテンポラリーダンスに関しては、自分の内側を「開けたぞ」ってやっている時って意外と「開けられていない」。まだ何かを着ている感じの自分をやっている感覚です。本当に「開いている」時って、自分がちょっとだけ無防備になって、そのことだけに捧げているような時。だから本当に実感がない。だからって、それがうまくいっているとは限らない。うまくいっている時もあると思いますが。
緑:私はこの前、即興をした時、うまくいっている感覚になりました。コントロールできないと思っていましたが、年月を重ねてきたからか、何となくできた時にハッと気づくようになりました。丸腰の無防備さを晒すことが大切で、それが全然なくなったらいい踊りはできないかもしれません。 -
松山のアートシーンの場・人について思うこと
2024年8月31日に、松山の演劇人やダンサーたちの活動の場として中心的な存在であった小劇場「シアターねこ」が閉館しました。yummydanceのメンバーも、作品を上演したり、稽古をしたり、ワークショップを開催していましたね。
―今後の松山のアートを育む場や人について思うことは?
砂織:自分たちでは「カフェライブをしよう。いいカフェない?ここで踊れる?」と、場所を探すのも楽しいんですけど、若い世代にシーンを受け継ぐことを考えると難しいこともあります。今までは、シアターねこが当たり前にあって。気軽に集えて、やらせてもらえて、交通の便もいい、活動にちょうどいい存在でした。
幸:そこにその世界を知っている人がいて、困ったらアドバイスをしてくれたり、この人に聞いてみたら?と、つないでくれるような存在がいるのもありがたかったですね。場所を予約して使えるところは公共施設にもありますが、シアターねこがすごいところは、そこに鈴木さん(鈴木美恵子さんVOL.001で紹介)がいたってことです。
砂織:今後も身近にアートセンターみたいな場所があればいいですね。行き交う人がいて、誰かが何かしていて、「あそこに行けば面白そう」という場所があれば…。さらに人と仕掛けがあってこそだと思うので、例えば、3カ月ごとに誰かが来ますとか、そこに来る人の面白さやコンセプトが欲しいです。
忍:ダンスや演劇の活動は、十分な収入があるわけではないので、場所が安く借りられる手軽さも大事だと思います。続けていくためにも気軽に借りて使える場があるといいですね。そういった場でもっとリアルな出会いをして欲しいです。今はSNSの中でのつながりで満足してしまっているのかも。スマホ画面の中で、画角の中に納まって踊ることだけにとどまって欲しくはないですね。
緑:小さい規模から場を温めていきたいですね。面白がって集っていれば、新たなコミュニティが生まれるかもしれません。活動場所と理由があれば若者も地元に留まると思うし、そういう仕掛けを作ることも必要だと思います。私たちがさせてもらったように、よちよち歩きの実験をする場みたいなものが必要だと思います。みんなでアートの芽を育てる気持ちで携わっていくことが大切かなと思います。―パフォーマンスだけでなく、約20年に渡り、子どもや、障がいのある人など、さまざまな人を対象にワークショップを行っていますが、ワークショップはどんな思いで取り組んでいますか。
緑:幼少期は誰もが踊る経験をしていて、本来はみんな踊れるはずで「踊りの種」みたいなものを持っていると思います。WSではそれをクイッとつついていくような時間を一緒に過ごしています。その人にしかない身体の動きがポロッと出てきたりして、それをシェアして楽しく過ごしています。言葉をうまく紡げなくても、ダンスだからこそ通じ合える瞬間があって、時にはお互いの関係性まで変わることも。舞台で踊っているだけだったら、分からなかったことに気づけてそれが作品のなかにも生かされていて、循環してつながっています。
幸:参加者の方から「踊りの種」を見つけるのと同じくらい、その人の動きを見ていると、私たちの中にも、新しく、芽生えてくるものがあります。講師として呼ばれて、紹介はされるけれど、一方的なgiveだけではなく、受け取っているものがたくさんあります。人間らしく交流をしている感覚です。
参加者と一体となって身体での表現を探求していくyummydanceのワークショップ。話しながら、「ああ、作品創りたくなってきたね」と常に、踊りの種は芽吹き、実を結び、彼女たちの中でも循環している様子。2024年12月8日(日)には、松山市文化創造支援協議会主催の一般向けのワークショップも開催予定です。参加希望の方は下記まで。
【ヤミーダンスと一緒に楽しむダンスの世界】
レクチャー&ワークショップ。活動や作品の生み出し方を体験しながら、アーティスト活動の面白さやノウハウを学んだり、考えたり、楽しい発見がいっぱい!アーティスト活動に興味がある人、何から始めたらいいか分からない人など、たくさんのお申し込みをお待ちしています!
12/15(日)は「山内知江子と楽しむアニメーションの世界」も開催。●日時:12/8(日)14:20~16:00終了予定(14:00開場)
●会場:愛媛県男女共同参画センター3Fレクリエーション室
●対象:高校生以上
●定員:20名程度
●参加費:無料
●お申し込みQR
(取材:2024年10月25日)
yummydance(ヤミーダンス)
写真左から、高橋砂織(たかはしさおり)、宇都宮忍(うつのみやしのぶ)、得居幸(とくいみゆき)、合田緑(ごうだみどり)
1999年、愛媛県松山市で行われたアマンダ・ミラーのダンスウエーブ・プロジェクトの選出メンバーで設立。アマンダ・ミラーとの共同ワークを経て2000年頃より松山市を拠点にオリジナル作品を継続的に発表し始める。これまでに、JCDN「踊りに行くぜ!!」巡回ツアーや横浜STスポット「ラボ20」、「WE LOVE DANCE FESTIVAL」、「東京コンペ」、「吾妻橋ダンスクロッシング」、「DANCE×MUSIC!」「混浴温泉世界in beppu 」など、国内の様々な地域で作品を多数上演。2005年、2008年にトヨタコレオグラフィーアワード・ファイナリストに2度選出される。これまでに猪熊弦一郎現代美術館、高知県立美術館、東京駒場アゴラ劇場、DANSPACEPROJECT(NY)、E-Werk(ドイツ)など、国内外のダンスフェスティバルでの上演や単独公演を開催。近年は、カフェや店舗でのパフォーマンスシリーズ「yummydanceカフェライブ」を各地で開催。また国内でのダンスワークショップにも多数携わる。地元松山の他にも丸亀市、高松市、和歌山市文化会館、徳島あわぎんホール、神戸dancebox、JCDNの企画や文科省芸術家派遣事業など、学校や福祉施設、公共ホールなどに出向き、出張ワークショップや長期ワークを実施。子どもから青年、高齢者、障がいを持つ方々、ダンサー、おやじ、婦人会、など世代も様々な人々と出会い「おいしいダンス」を踊る喜びを堪能中。
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