松山ブンカ・ラボ

INTERVIEW

まつやま文化人録

  • VOL.001
  • 2019.03.01 UP
鈴木 美恵子 さん
NPO法人シアターネットワークえひめ
「多様性のある社会とは、
 ギザギザした社会だと思うんです。」

松山のシアターねこといえば全国の小劇場シーンでは知られた存在です。
この劇場を運営するのがNPO法人シアターネットワークえひめ。設立したのは松山の演劇界を長い間支え見守ってきた鈴木さんです。「演劇と社会」の接続点についてお話しいただきました。

  • 本当にやりたいことをはじめる

    松山へは30歳の頃に来ました。それまで故郷の広島などで演劇活動をしていたんです。私が来た頃の松山では“こじか座”をはじめ様々な劇団が活動をしていました。私も少し“こじか座”に入っていましたが、その後、“M・A・D”という劇団を立ち上げました。1982年頃の話ですね。愛媛大学などの学生もたくさん劇団に参加してくれました。ちょうどその頃は松山の演劇活動が転換期を迎えていたこともあって、私たちの劇団には松山の演劇人が集まってきたような印象です。松山市民会館で3ステージやって1500人もお客さんが集まったんですよ。年4本くらい上演していましたね。でもそのうちに、たくさんの劇団員のために公演を打つことが大変になってきたんですよ。劇団のために演劇をやることの違和感って言うんですかね。だから“M・A・D”は6年くらいでたたんでしまいました。その後、演劇プロデュース集団って言うんでしょうか、“く☆す”っていうのを立ち上げました。劇団ではないので公演ごとに出演してほしい人に声をかけて、別役実や清水邦夫、井上ひさしとか既成戯曲を上演しました。本当にやりたいことを、一緒にやりたい人たちと創るっていうことをしていきました。

    主催事業の戯曲講座の模様

  • これこそが社会を変えていくと思ったんです

    少し経ってから松山市民劇場という演劇鑑賞会の事務局で働くことにもなりました。市民劇場では東京の劇団に来て頂いて会員向けの例会(公演)をするんです。でも、ここでは呼ぶことのできる劇団は限られていました。また、私の本当にやりたいことは演劇鑑賞会という枠ではできないことに気付きはじめたんです。本当にやりたいことというのは、地域の演劇の質を向上させたいということだったり、演劇を通して地域社会への貢献ということなんです。

    松山市緑町にあるシアターねこ

    ちょうどその頃、東京の歌舞伎座で中高生に歌舞伎の体験をさせているプログラムを偶然見る機会があったんです。歌舞伎役者が中高生に対して歌舞伎の楽しさを知ってもらおうとしている。演劇や芸術が社会に対してアプローチする手段として、アウトリーチやワークショップという方法があることを初めて知りました。そんな矢先、1998年にNPO法という法律が出来て、NPOという活動方法を知ることになります。利益を内部で配分せずに、地域社会の課題解決するための事業に運用するという非営利という考え方に衝撃を受けました。これこそが社会を変えていくと思ったんです。

  • 何か地域のためにできることがあるかもしれない

    それまで私は演劇を創ることの楽しさだけを追求していたということに気付いたんです。何か地域のためにできることがあるかもしれない。そして、地域に根差した活動を続けていく運動体として2007年にNPO法人シアターネットワークえひめ(TNE)を設立することになりました。まずは拠点を探さなければならず、大街道のビルや県の施設の倉庫を転々としました。バトンや照明を仕込みアトリエとして、劇団の稽古場や公演場所として提供していきました。現在の場所に移ったのは2012年です。松山や県内、四国の劇団や、全国からさまざまな劇団、演劇人が公演しています。

  • 多様な社会を見るかのような演劇を創りたい

    昨年2018年から精神障害を持っている方々の就労支援を始めました。私たちが運営しているカフェで働いてもらったりしています。なぜ精神障害を持つ人たちの就労支援なのか?とよく聞かれます。私は、文化芸術は人の精神に作用するものだと思うんです。なかでも演劇は人間のことをわかろうとしないとできません。演劇は他者感覚がとても重要です。他者の気持ちをわかろうとする姿勢があれば、精神障害を持つ人ともビビットに向き合えるかもしれない。そしてお互いにわかろうとする歩み寄りによって、いつか一緒に演劇を創ることができるんじゃないかと思っています。さまざまな人たちが同じ舞台に立つことによって、そこに多様な社会を見るかのような、そんな演劇をいつか創りたいです。多様性のある社会というのは、ギザギザした社会のことだと思うんです。そういう本当の意味での多様性を舞台に立ち上げて、いろんな人に見てもらいたいですね。

    NPOを作ろうとしていたとき、演劇活動をしているあるNPOの方にお話をききに行ったことがありました。その方が「演劇は民主主義社会を達成するための手段だ」と言われてびっくりしたことがあるんです。そのときは理解できなかったんですけど、社会と向き合う手段としての演劇活動ということを、いまはよくわかります。

(取材:2019年2月5日)

NPO法人シアターネットワークえひめ

2007年に舞台芸術の振興を目的に設立。現在会員数は30名。シアターねこを拠点とし、作品創作、劇団招へいと上演、地域の発表の場としてのシアターの提供、地域の演劇人のネットワーク構築など活動は多岐に渡る。2018年より「就労継続支援B型事業所 風のねこ」を開設。演劇、芸術文化と社会をつなぐ活動は新しいステージに進んでいる。

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    鈴木 美恵子さん
    NPO法人シアターネットワークえひめ