松山ブンカ・ラボ

JOURNAL

特集記事

2020.05.05 UP
VOL.
014
report
いま、地方都市・松山の文化・芸術は?①

戸舘正史(松山ブンカ・ラボ ディレクター)

  • 平時の文化政策があることの強み~全国・行政の取組み

    これから3回にわたって全国の動向を踏まえながら、松山におけるコロナ禍の文化芸術の現状について私見を交えてレポートしていきます。3回に分ける理由は、状況がどんどん変わっていきますし、情報も更新されていくことと、筆者自身も日々思考が定まらないからです。

    一般的にはどのくらいの関心ごとであるかはわかりませんが、コロナ禍の文化・芸術シーンについての情報はSNS等で溢れるように拡散、発信されています。地方公共団体等の新しい施策、あるいはアーティスト、芸術団体等のオンライン発信プログラムなどなど、国内だけではなく海外での動向もあわせると、とてもとても追いつけないほどです。
    松山市・石手川公園でマクドナルドを食べながらネットサーフィンに励む筆者(ソーシャルディスタンス)

    こうした情報は大まかに「支援」と「表現」に分けて整理できます。「支援」というのは、アーティストをはじめ、文化・芸術産業に従事しているひとたち、劇場やホール、美術館等の施設に対する、主に経済的な支援のことです。「表現」は、アーティストや芸術団体、劇場、ホール、美術館等が、上演、演奏等の機会が失われたことによる代替的な表現の発信や機会の提供についてです。動画配信をしたりしているアレですね。今回は文化・芸術領域への「支援」の全国的な現状と松山の文化創造拠点の現状等についてレポートしていきます。

    アーティストや文化・芸術団体だけに限らず、自営業者やフリーランス等への休業補償等の経済支援策は、欧米諸国が日本とは比べものならない迅速さと手厚さであることはご承知の通りです。本稿では海外の事例については触れませんが、日本での文化・芸術支援策は、各国の施策を参照にしつつ、当事者/関係者の焦りや切実感が、行政や民間による実践を後押ししている側面もあると考えられます。4月末から5月にかけて、調整に手間と時間のかかったと想像される地方公共団体による支援策が都市部を中心に加速度的に施行され始めました。

    まず国の取り組みについてです。文化芸術領域に対する支援策という点ではあまり目ぼしい動きはありませんが、文化庁が「新型コロナウィルスの影響を受ける文化芸術関係者に対する支援窓口」を開設しています。また、公演中止を受けてのチケット料金を購入者が払い戻さずに「寄附」することに対して税優遇する制度も新設されました。

    国の施策が進まないなか、日本文化政策学会と文化経済学会は4月8日付で文化庁長官宛に「文化領域における新型コロナウィルス感染拡大に対する政策メニュー(緊急提言)」を提出しています。これらの提言を踏まえた上で、文化庁には予算再編、補正予算化をするなどして、新たな支援制度の構築が求められます。日本文化政策学会と文化経済学会の緊急提言は今後も第二弾、第三弾と続く予定です。

    一方で、地方公共団体は、文化・芸術領域に限らず経済的損失に対する補償や給付金などの支援策が国より先んじているのと同様に、文化・芸術領域を対象とした支援策もまた次々と打ち出されつつあります。以下、列挙してみましょう。

    ●東京都「アートにエールを!東京プロジェクト」
    ●京都市「京都市文化芸術活動緊急奨励金」
    ●京都府「文化活動継続支援補助金」
    ●長野県「頑張るアーティスト応援事業」
    ●金沢市「芸術文化振興緊急奨励事業」
    ●鳥取県「アートの灯を守るとっとりアート支援事業補助金」
    ●札幌市「無観客公演配信補助」
    ●横浜市「市内のアーティスト等の文化芸術活動緊急支援事業」
    ●福岡市「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた文化・エンターテインメント事業者への支援」
    ●大阪府「大阪文化芸術活動(無観客ライブ配信)支援事業補助金」
    ●愛知県「愛知県文化芸術活動応援金」「文化芸術活動緊急支援事業」「文化活動事業費補助金」

    など(順不同)
    ※ 日本文化政策学会「文化領域における新型コロナウィルス感染拡大対応提言ワーキンググループ」による情報集約やWEB美術手帖「行政によるアーティスト支援事業まとめ」などを中心にインターネット上の情報をもとにピックアップしました。現在進行中のため漏れがあると思います。ご了承ください。

    これら行政の支援策の主流となっているのは、ライブ配信やWEB上に発表する動画等の作品制作に対する補助、あるいはライブや動画を配信するための設備投資に対する補助を交付するというものです。前者の場合は、作品制作が納品されることによってその対価を支払うという仕掛けですね。

    しかし例えば京都市「京都市文化芸術活動緊急奨励金」では、現状のコロナ禍でも可能な文化芸術活動として調査、企画、制作などに対して奨励金を出すというものもあります。コロナ禍の波が落ち着いてからの何かしらのアウトプットを想定しているという点で画期的です。極端なことを言うと、芸術関係者の「内省的な実践」への対価ですね。

    行政の施策のなかでも特筆すべきは愛知県です。「愛知県文化芸術活動応援金」では減収している文化芸術活動関係者に対し「応援金」(法人20万円、個人事業者10万円)を交付、申請はオンラインで受け付けるというヨーロッパ型の支援策と言えます。また、愛知県美術館等での作品購入予算を少なくとも倍増し、日本の若手作家の現代美術作品を重点的に購入していくことを検討していると言います。コロナ禍対策の文化・芸術支援としては全国で最大の6億円規模だそうです。〈あいちトリエンナーレ2019〉の修羅場を乗り越えてきた大村秀章・愛知県知事の面目躍如の感があります。

    いずれの支援策も都、府、県をはじめ政令指定都市クラスの地方公共団体による実践です。これは財政規模が大きい地方公共団体だから可能であるという側面もありますが、そうとばかりも言えません。例えば鳥取県は、地方公共団体の財政力の強弱を測る指標の一つ「財政力指数」が全国で45位です(平成30年度調査、全国平均の0.52を大幅に下回る0.28)。むしろ鳥取県はピンチをチャンスとばかりに既存の文化・芸術活動を支援するという視点だけではなく、新たに文化を創出していこうという目論見が垣間見られます。鳥取県の平井伸治知事は4月16日の会見で「インターネットなども駆使して全国に向けてアート活動を灯を絶やさないために、コロナの危機を乗り越えることを全国の芸術家と連携をしてやっていくと、そんな企画もございます。こういうものも県として支援をしていこう」と述べているように、鳥取県という地域だけの状況を鑑みるのではなく、鳥取を起点に文化芸術を創造し、全国へ発信していくという意図を読むことができます。

    また金沢市のように金沢21世紀美術館の成功をはじめとして文化と観光によって目覚ましい成果を挙げているところや長野県のように県および県文化振興事業団が積極的に文化政策を打ち出しているところなどは、そもそも行政として文化・芸術支援に対する感度が高かったと言えます。つまり、これらの文化・芸術領域に対する支援策を国に先駆けて実施している地方公共団体は、平時より文化政策をプライオリティの高い政策として位置付けているところです。加えてこれらの地域の特性としては、とりわけ都市部において文化・芸術がある程度の産業基盤を持っていたり、あるいは支援の対象として想定することのできるアーティストや関係者が一定水準可視化されているという状況にあったと考えられます。

    例えば、福岡市の「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた文化・エンターテインメント事業者への支援」は、平時から補助金等を活用しながら芸術活動をしている団体、施設を対象とした支援というよりも、商業的なエンターテインメント領域に対する支援策の意味合いが相対的に強いようにうかがえます。データを取ることはできませんでしたが、福岡はライブハウスが多く(不確かなネット上の情報によると一人あたりのライブハウスの数が東京に次いで二番目に多いというものがありました)、ローカルの芸能業界が成立している状況にあることはよく知られています。福岡市の支援策で「文化・エンターテインメント事業者」と明記されているのは、いわゆる文化産業=エンターテインメント産業が都市の産業の内で占める割合の高いことも理由の一つでしょう。

    東京、大阪、京都、横浜、札幌など大都市もまた福岡と同様な状況にあることは言わずもがなです。エンターテインメントが産業として一定の割合を占めているのと同時に、「非営利的」な芸術活動に従事している人たちも都市部は相対的に多い状況にあります(ちなみに先に挙げた地方公共団体の内、鳥取と長野以外はいずれもプロ・オーケストラが拠点を持ち活動している都市であることに気づきます)。
    日本オーケストラ連盟に所属する正会員のプロオーケストラは例外なく法人格を有する非営利団体です。事業収入だけで運営されておらず、財源の一定割合は公的助成金や寄付金などで賄われています。これは日本だけの事情ではなく世界中のプロオーケストラもほぼ同様です。

    このような行政による支援策だけではなく、民間によるクラウドファンディングも活発化してきました。「アーツ・ユナイテッド・ファンド」はフリーランスのアーティスト、制作者、技術者、批評家などを対象にした基金です。「小劇場エイド」は全国の小劇場を支援する目的のもの。他にもいくつか立ち上がっていますが、なかでも全国の単館系映画館を支援する「ミニシアター・エイド」は一般的にも大きな反響を呼んでおり、5月5日時点で寄附金は2億円を超えています。

  • 地方都市・松山の文化芸術

    例えば松山市のような地方都市あるいは中核市(人口20万人以上)は、先に挙げた都市等と比べて文化産業に従事している人や団体の絶対数が違います(人口46万人の金沢市も同規模の中核市ですけど)。また、これまで紹介してきた都市部での支援策は、文化・芸術を生産する側、供給する側に対する支援に重きが置かれています。コロナ禍で需要が半ば強制的に凍結させられたからこその、供給側への支援といわけです。しかし、文化・芸術の需要という観点に限って言うと、都市部と地方の格差が大きいことは言うまでもありません。例えば、演劇等を鑑賞する人(需要)の地域間格差はどのくらいあるのかを調べてみると、2016年の社会生活基本調査では東京の25歳以上演芸・演劇・舞踏鑑賞人口は100人あたり21.18人で全国第1位に対し、愛媛県は人口100人あたり9.36人で全国44位です。愛媛県は東京都のおよそ半分以下。それにこの調査は「演芸・演劇・舞踏鑑賞」ですから、エンターテインメントも入っているので、非商業的な舞台芸術などに限定したらさらに観る人が限られてくることが推測されます。この観点に限って言うと、都市部の文脈は地方都市においては通用しないことは明らかです。

    文化・芸術領域が産業化していない地方都市においては、平時よりアーティストや文化・芸術関係者はそれぞれの生活の基盤を持ちながら文化・芸術領域に身を置いているケースが多いと言えるでしょう。そのことが、それぞれの活動の前提となっている節があります。もちろん、都市部においても文化・芸術領域だけを専らの生業にせず、副業を持っている人たちはたくさんいますし、逆に地方都市においても専ら文化・芸術のみを生業にしている人もいます。とはいえ、殊に松山のケースに限ると、文化・芸術領域がコロナ禍で受けている何かしらの影響を、危機的状況として一般化できるほどの事態にはあるとは言い難い状況にあります(これに関しては実感レベルと数人のサンプルだけですから、いずれ根拠をお示しする予定です)。

  • 松山の3つの文化・芸術拠点

    さて、松山の文化・芸術の創造拠点と呼べる場所はどこにあるのか? 市や県の公立文化施設は日常的に文化・芸術関係者、表現者、市民が集い交流する場所となっていたのか? もし、なっていたとしたら、コロナ禍でこれらの施設が休館となっている事態は、松山の文化・芸術領域における相当なインパクトとなっているはずです。
    ※松山市の文化シーンの現状ですが、当然ながら市の文化施設(松山市コミュニティセンターや松山市民会館、松山市考古館坂の上の雲ミュージアム子規記念博物館、など)や県の文化施設(愛媛県美術館、愛媛県民文化会館など)は5月11日まで休館となっています(5月5日現在)。

    一方で、松山市内の民間の文化・芸術拠点はどうでしょうか? 松山には人口50万の地方都市相当のライブハウス、クラブ、ダンススタジオなどが存在しています(ダンススタジオは50弱程度、ライブハウス/クラブは10から15程度)。そのなかでも、独自の活動を展開し、替わるものがない唯一無二の3つの文化・芸術拠点の現状についてお伝えします。

    松山市唯一の小劇場〈シアターねこ〉は休館はしていませんが、5月~7月にかけて公演や稽古等の予定が全くない状況です。4月初旬にはある家族が劇場を借り、家族だけが出演、劇場代表の鈴木美恵子さんだけが観客の「家族文化祭」を開催したそうです。工夫次第では、コロナ禍のなかでもインターネット空間だけはなく劇場空間を活用することもできるかもしれません。〈シアターねこ〉では演劇関係の書籍やDVD等が閲覧でき、貸出も可能なようですから、ふらりと立ち寄られたらいかがでしょうか。また劇場の運営を支え、主催公演を鑑賞できる「劇場支援会員」を随時募集していますので、〈シアターねこ〉が松山になくてはならない場所とお考えの方は、この機会に入会されることをお勧めいたします。
    ※劇場を運営するNPO法人シアターネットワークえひめへの寄附は一口5000円から受付しています。
    -5月6日追記
    シアターねこは元幼稚園の和光会館内にある(松山市緑町1丁目)

    ダンススタジオMOGAでは5月2日までオンラインでダンスレッスンを受けられるスペシャルオンラインプログラム「OUCHI-MOGA」を開講していました。MOGAは様々なジャンルのダンスが学べるクラスを開講しながらも、スタジオを劇場化して数々の公演を開催するなど、松山のコンテンポラリーダンスのメッカとして全国的に知られています。ダンスユニット〈赤丸急上昇〉、コンテンポラリーダンスカンパニー〈yummydance〉や〈星屑ロケッターズ〉の公演、ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)との共同事業、海外ダンサーの招へいなど、松山のコンテンポラリーダンス及び舞台芸術をけん引する拠点を支えていくことは、松山の文化・芸術のアイデンティティを守っていくことでもあります。
    ※5月7日からスペシャルオンラインプログラム「OUCHI-MOGA」第2弾が始まります(5月20日まで)。-  5月6日追記
    3階の大きなスタジオが「劇場化」するダンススタジオMOGA(松山市湊町3丁目)

    松山市唯一のミニシアター映画館「シネマルナティック」は5月7日まで休館中です。ドキュメンタリーや単館系作品、クラシック名画などを優れた審美眼でプログラミング、上映を続けているこの映画館もまた、松山の文化・芸術的アイデンティティを成す大切な場所です。4枚つづりの回数券(5000円)がお得なうえに有効期限もありませんから、購入することが松山の映画文化を支えることにつながります。
    ※シネマルナティックは「仮設の映画館」に参加しています。インターネット上での映画配信(想田和弘監督『精神0』)を鑑賞することによって鑑賞者が選択した映画館に料金が配当されます。
    -5月6日追記
    シネマルナティック外観、ビルの3階には大衆演劇の松山劇場がある(松山市湊町3丁目)

    次回はコロナ禍の「表現」についてのレポートと今回紹介した事例とは異なる観点から文化・芸術の「支援」のあり方について考えていきます。

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