松山ブンカ・ラボ

JOURNAL

特集記事

2021.12.24 UP
VOL.
028
report
レポート『ギャラリー?アートセンター?オルタナティブスペース?PAACって何?』

田中 直樹(東温市地域おこし協力隊)

  • はじめに

    2021年9月30日、PAAC 平和通りアートセンターに、アーティスト、建築家、研究者、地方公務員、翻訳家、劇場運営者など多種多様な10名のゲストが集まり、それぞれが館挙げる地域におけるアートセンターの役割やこれからの構想について語り合いました。東温市地域おこし協力隊の田中直樹さんがレポートします。

  • PAACとは何か?

    2021年7月に平和通りに誕生した平和通りアートセンターPAAC。トークの冒頭では、そもそもギャラリーやオルタナティブスペース、アートセンターとは何か?といった平和通りアートセンター「PAAC」を語るのに欠かせない事例紹介から始まり、PAACを建築や立地、アーティストの目線などからどう活用して展開していけるのかを語り合いました。分野の違うゲストだからこその「場所」の掛け算がそこでは生まれ、このような取り組みが一回きりではなく、偶発的に次々と展開されてこそのアートセンターであると思いました。
    「ギャラリー」とは、もともと貴族たちの回廊から発祥したものであり、ある意味で人に絵を見てもらうという一方通行の役割を果たす施設として機能しているが、それに対して「オルタナティブスペース」という“もう一つの”、“別のあり方”という考えが誕生したと戸舘さんは語ります。

    戸舘正史(松山ブンカ・ラボ)

    「オルタナティブスペース」は、どのような地域、国に作品を持って行っても常に均質的な状態を保つホワイトキューブに対する別の切り口であり、日常生活との地続き、地域に根付いた資源から派生された環境での創作、発表などが行われています。
    街中で古民家を回収して展示スペースとして開放しているようなところも広く「オルタナティブスペース」と言えるのではないでしょうか。

    2021年8月にPAACで開催した「もの申す」。ワークショップと展示を3週にわたり実施した。

    2021年7月にPAACで開催した「題名のいっぱいある展覧会」。1階のカフェスペース、2階の展示スペースでワークショップ、展示をおこなった。

    オルタナティブスペースの事例紹介の後には、山口情報芸術センター(YCAM)や京都芸術センター、前島アートセンターをはじめとした全国各地のアートセンターの事例紹介が行われました。
    私自身も2年ほど前までは京都芸術センターで行われるクリエイションの現場に携わることも幾度かあり、アートセンターの特異性を目の当たりにしています。
    京都芸術センターは、明倫小学校という京都市内の廃校を活用した施設であり、地域の方々との協議のもと誕生したアートセンターです。一階にはカフェスペースや全国の芸術分野の情報が集まるエリアがあり、二階、三階を含めたそのほかの部屋(教室)には利用申請を行った分野の異なるアーティストがクリエイションの場所として利用している実にユニークな環境となっています。
    事例紹介は10分程度で終了したが、また改めて長時間で講義を聞きたいとの声が上がるほど興味深い全国の事例がここではうかがえました。

  • 登壇者の声から見る今後のPAAC

    事例紹介ののちに、各トークゲストに向けてPAACに着眼した質問が投げかけられました。PAACについて、まず建物一階のカフェスペース“かまどねこ”の運営に関わられている鈴木さんから話が始まり、その後、建築やコミュニティ、経済地理学、アーティストからの目線など多分野のゲストからの様々な視点からPAACの現在地と今後のあり方にメスが入れられていきました。

    2021年11月にPAACで開催した芝美季個展「うつりゆくもの、在り続けるもの」の様子

    アートスペースやギャラリーなどを経済地理学の目線や建築学的な角度から見る機会がなかった私にとっては非常に新鮮に感じられました。
    PAACは、経済地理学の見方からすると立地についてはメリットがない状況ではあるものの、逆にメリットがないことがメリットと山口信夫さんは言います。立地としては中心市街地からは外れ、商業施設がひしめく訳でもない場所ではあるものの、その土地の歴史や環境から捉えるとオーソドックスなものを提供するよりも尖ったもの、異色なものを発信していく方がより良い色が出せるのではないかと話が展開していきました。

  • コミュニティから見るPAAC

    また、コミュニティの観点からも話が広がりました。板東ゆかりさん(松山アーバンデザインセンター)は街中にこういった一人でぼうっとしたり、新しい価値観との出会えたり、他者の活動を可視化できる環境が街中にあることの大切さを伝えられるとともに、井上志保さん(翻訳家)からは、コロナ禍も相まって、直線的な世の中の人の動きの危うさに触れられ、このPAACにて人の曲線的な動き、回遊性が生まれることを望まれました。
    他者の作品を見た人が、その影響を受けつつ作品を新たにつくり展示するようなアートのリレーのようなものや、PAACを中心に街中に出て、絵本を読み聞かせや展示、短編の芝居を見れるようなが取り組みが生まれると面白いと話題の中であがり、これが実現すればPAACの一つの強い特色になることはもちろん、地域や新たなアーティストとの連携にもつながる話だと思えました。
    PAACのような色んな機能を持つ場所で面白かった事例という目線で、中ムラサトコさんからは横浜のドヤ街にあるホステルの話題があがりました。アルコール中毒者が沢山いるような街ではあるものの、かえって色んな人が集まる開かれた場所であり、ここには肩書きがいらない、良いことをしようとしない大切さというものに気づかれたと言います。

    中ムラサトコ(ボイスパフォーマー)

    肩書きによる生きづらさ、良いことをしなければ、という義務感から解放された生き方ができるということは、今の社会にとって必要な考え方であると思うとともに、その考えを担えるポテンシャルをPAACは十分持っているように感じます。
    作品を発表する側の目線としても牛島光太郎さん(美術家)から同じように「肩肘を張らない」良さというものがあげられ、このようなフラットに作品を発表できるようなアートセンターの誕生に非常にポジティブさを感じられていました。

    牛島光太郎(美術家)

  • 今後のPAACについて

    PAACとは何か、今後の行く末をどうするのかをトークする集まりでしたが、今回のトーク企画自体が既にPAACの取り組みとして面白く、PAACだからこそ出来る特色であると参加をして思いました。トークの中で特に面白いと思ったのは、肩書きに縛られない生き方と肩肘をはらずに作品創作ができる、一人でボーとできるという意見がそれぞれ視点や気づきのタイミングは違えど、根底は共通しているという点です。人の営みを包容するような役割がPAACにはあると思うのと同時に、社会全体がそういった存在を求めていると痛感をしたトーク会でもありました。
    多種多様な人材が集まる中で、対話を生み出し、興味のある人がふらっと立ち寄れる交流の場としてPAACはすでに始まっています。一つの芸術に特化せず、創作や発表の場を提供するとともに、資料の貯蔵やワークショップの開催など、平和通りアートセンター「PAAC」はすでにその役割を松山で担っていると今回のトークイベントを通して感じました。

    トークゲストはオンラインで北海道からも参加した。

    トークゲストそれぞれの立場からアートセンターや地域の文化芸術に関して様々な意見が出た。

     

  • トーク概要

    『ギャラリー?アートセンター?オルタナティブスペース?PAACって何?』
    2021年9月30日(木)19:30~21:30
    会場:PAAC 平和通りアートセンター(物語カフェかまどねこ2階)
    愛媛県 松山市 平和通1-1-2 入場無料
    トークゲスト:
    青砥穂高(今治ホホホ座)
    戸舘正史(松山ブンカ・ラボ)
    山口信夫(愛媛大学)
    中ムラサトコ(ボイスパフォーマー)
    井上志保(翻訳家)
    白石卓央(建築家)
    牛島光太郎(美術家)
    板東ゆかり(松山アーバンデザインセンター)
    鈴木美恵子(シアターねこ)
    武井裕章(PAAC館長)

    PAAC平和通りアートセンターとは
    2021年7月に《物語カフェかまどねこ》2階に開設した私設アートスペースです。カフェの運営をするシアターねこの理解のもと、木造家屋2階の6畳間を合法的に占拠。白壁のギャラリーにリノベーションしました。
    『題名のいっぱいある展覧会』(7月)、『もの申す』(8月)、芝美季個展『うつりゆくもの、在り続けるもの』(11月)、『愛媛・演劇の21世紀 -チラシアーカイブ 2000-2021 中予編-』(12月)など展覧会やワークショップを実施しています。単なる貸ギャラリーではなく、対話と発見の生まれることを条件に、自主企画や企画提案を受け入れながら運営をしていきます。
    現在のところ、PAAC館長の元浮雲書店の武井氏、松山ブンカ・ラボ構成員の松宮氏、BAMATSUKAI(仮)の青砥氏などが中心となって企画に参画していますが、今後はさらにPAACに関わるプレイヤー、キュレーターを増やし、より街に開かれた創造的交流の場としていくことを目指しています。

  • 執筆者

    田中直樹(東温市地域おこし協力隊)

    1997年生まれ。滋賀県出身。大学卒業とともに愛媛県東温市の地域おこし協力隊に所属。 学生時代に演劇活動を始め、舞台制作業務の経験を活かしつつ、東温市が掲げる「アートヴィレッジとうおん構想」の事業に現在取り組んでいる。

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