松山市文化創造支援協議会

JOURNAL

特集記事

2022.09.13 UP
VOL.
033
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カコアの歩み ――「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」―― 第四回 QaCoAインタビュー

Cher(会社員)、篠沢唯(会社員)、奥村真司(会社員)、竹内仁美(ロン文庫/三帆堂店主)、山内知江子(アニメーション作家・美術家)

  • 全4回にわたる特集記事「カコアの歩み ――我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか――」は最終回となります。

    前回に引き続き現在のQaCoAに関わっている主要メンバーを紹介します。彼らがなぜQaCoAに関わるようになったのか、印象的な出来事、QaCoAの活動を通して思ったこと、QaCoAの将来などを語っていきます。さらにQaCoAの活動を間近で見守り続けて下さった方々にも、QaCoAのあゆみや将来についてのお考えを伺いました。

    編集:高畠麻子(高畠華宵大正ロマン館)

  • Cher(会社員)

    2017年頃だったと思いますが、当時すでにQaCoAのメンバーでもあった会社の先輩に誘われて、QaCoAのイベントを見に行きました。三津で開催されたアーティスト・イン・レジデンスについてのシンポジウムだったと思います。その頃は入社一年目でしたが、その流れで篠沢さんに「QaCoAに入ってみる?」と紹介して頂きました。私は芸術系の大学に行っていたことから、在学中もワークショップや展覧会の企画なんかをしたこともあったので、QaCoAの活動には元々興味は持っていました。それに私自身はデザイナー志望だったので、QaCoAに関わっていたら、何か自分の肥やしにもなるだろうな〜とか、アート関係の知り合いも増えるといいな〜とか思っていたので、誘ってもらって嬉しかったです。

    実際に活動をしてみると、アーティストとの交流が出来たり、会社だけでは味わえないアートの現場を経験できたり、すこく楽しいです。予想していないことが起きることもあって、そういう時の対処法とかを見ていると、「そういう解決法もあるんだ」と思ったりします。こういう即座の対応をすることは、自分の中でも意識的にQaCoAの活動で身につけて行きたいなと思っています。今はデザインの仕事がメインなので、実際の現場での空気や参加者のリアクションを感じる経験がQaCOAで出来るのは、私にとってはとても意味のあることなんです。

    道後でやった浅井裕介さんのワークショップはとても印象に残っています。浅井さんの指示に従って、大きな紙に子どもたちが好きなようにペイントして、それを浅井さんが作品に仕上げて、展示するというイベントですが、大きな作品作りに関わることって中々ないですよね。子どもたちの様子が楽しそうでお手伝いしてても嬉しかったし、懇親会で浅井さんと少し話をして、学生時代の作品を見てもらったので、個人的にも嬉しい出来事でした。

    私はまだメインで企画を担当する自信はないですが、サポートとして自分に出来ることをしたいなと思っています。まだ新参者なので、知らない話題についていけないこともあって、その都度「それは誰ですか?」とか「それは何ですか?」とか聞く勇気はない(笑)けど、きっちりとしているけど硬すぎず、比較的自由度が高い活動をし続けているQaCoAには、これからも関わって行きたいです。たとえば一人では出来ないような「大きな」ものを作るイベントやワークショップなんかが出来ると楽しいかなと思います。アートを通して、点と点をつなげるような、人と人、人と場所、場所と場所をつなげるような活動をやってきたいと思います。

  • 篠沢唯(会社員)

    私は大学生の時からQaCoAに関わり始めました。大学の卒論で「アートプロジェクトについて」という大きなテーマに取り掛かることになったんです。ゼミの先生から、私の出身である三津でQaCoAというグループが色々活動しているということを教えてもらって、実際に「アート蔵」というイベントを見に行きました。2009年頃だったと思います。蔵の中でミュージシャンの演奏やライブペインティングなどのパフォーマンスをやっていて、自分の故郷の町でこういうことをやっているのは知らなかったし、こういう人たちがいるということを知って驚きました。さらには「蔵」とか古い街並みの中で、最先端の現代アートの表現をするというのが、こんなにも合うものなんだというのが新鮮に感じました。

    それ以降は何となく色んなイベントを手伝ったりして、気づいたらメンバーになってました(笑)。大学2年頃のことです。一番若かったので、QaCoAには色んな大人がいるな〜という印象でした。色んな大人が楽しみながらやっている感じがいいなと思いました。

    印象に残っているのは、中島の廃校で「Hanbunko」という映像作家とダンサーのユニットにと一緒にやった「島の学校文化祭」というイベントです。廃校の中のいくつかの教室を使って、場所を変えながらその都度、映像とダンスのコラボライブなのですが、「廃校」というコンテンツの中でというのがすごく特徴的だなと思ったのと、そういうものとアートや芸術をつないでいくのがQaCoAなんだなと思いました。

    中間支援に特化して活動しているというのがQaCoAの特徴だと思いますが、あまり一般的に認知されていない印象があるので、そこはちょっと残念に思います。事務所があるとかそういう訳ではないし、中々知ろうと思っても知る機会がない団体なので、もっと認知度をあげてもいいかな。私は直接関わったことはないのですが、昔、「おいでんか」というスペースをやっていた話を聞きましたが、そういうスペースがあってもいいのかなと思います。拠点的なものが出来ると活動の幅も広がって、QaCoAのことももっと知ってもらえると思うので。

    今の若い人は、色んな興味が細分化していて、自分が興味あること以外については触れないという感じですよね。好きなものが同じ人同士は、たとえばネット上でつながったり、それこそ「密な関係」をネット上で築き上げていますが、でもリアル感がない。私は、若い人でも、リアル感がないと寂しい時もあるんじゃないかなと思うんです。「そこに生きている」感は、リアルのコミュニティで感じられると思うし、本当に困った時に助けてくれるのはリアルなコミュニティではないかと思うんです。若い人が地域に目を向けるきっかけになるのが、地元でのアートイベントで、そこからリアルなコミュニケーションが始まるのって、素敵ですよね。そんな風に、地域に対する目線を持ち続けることが、QaCoAの存続の意義だと考えています。道後オンセナートのような大きなアートイベントは、全国の色んなところで開催されていますが、結構出ているアーティストも似てきていて、大きなイベントはマンネリ化しているのかなと個人的には思っているのですが、QaCoAも道後には関わっていましたが、よりローカルなところを見出してくのがQaCoAかなと思うので、地域住民に対してアートとか、そういう刺激を与え続けられたらいいなと思っています。

  • 奥村真司(会社員) アプリとwebの開発会社のディレクター

    僕は大学の時から始めた音楽がきっかけで、アートに興味を持つようになりました。東京に住んでいたころは、森美術館でバイトをしたり、アートイベントの企画をしたりしたこともあります。そのうちに「アートマネジメント」に関心が出てきて、立教大学大学院文学研究科比較文明専攻 アートマネジメント社会人研究生として学んだこともあります。そこで色々と学ぶうちに、ふと「故郷の愛媛ではどうなっているんだろう?」と疑問に思ったんです。アート関連の施設としては、愛媛県美術館ぐらいしか思い浮かばなくて、色々と調べているうちにQaCoAを見つけたんです。

    すぐに事務局の田中さんに連絡をして、色々と話を聞きました。ちょうどQaCoAがアサヒアートフェスティバル(AAF)の関係で、東京でもアートイベントをやるという時期だったので、仲間に加えてもらいました。

    その頃僕はWombという渋谷のクラブで働いていました。Wombはクラブではあるんですが、前衛的な音楽はアートにつながっていくと思うし、僕自身も音楽から他のジャンルのアートに興味を持ったので、クラブとは言っても、単なる商業空間ではなく、カルチャースペース的な捉え方も出来るんじゃないかと考えていました。じっさい色々なイベントをWombでやっていたので、QaCoAの東京でのイベントもそこを会場に、東京いる愛媛出身のアーティストたちのトークイベントを開催しました。

    2020年5月に愛媛に帰ってきてからは、コロナということもあって、QaCoAの活動にはまだそれほど関われてはいません。QaCoAがやっているのはおそらく、その場でしか生まれないものを求めているというか、色々な見方を提示する機会を作っていることだと思います。たとえば音楽やダンス、絵画鑑賞など、同じ演目や作品でも、場所が違うと異なった見方が立ち上がって来ます。その延長線で考えれば、これからはデジタルの世界でもQaCoA的な試みが出来る場所(プラットフォームのようなもの)が生まれると面白いんじゃないかなと思っています。

    僕自身がWEB関連の仕事をしているので余計にそう思うのかも知れませんが、QaCoAは「アートが地域にどう関わるか」ということをこれまでも模索していて、地元の文化的土壌を盛り上げる取組をやって来ましたが、そういう試みをWEB上でも発信していくのは大事じゃないかなと思っています。アバターを使ってバーチャル空間を生きるみたいなことはありますが、どういう形にしろ、地元にこだわった部分を伸ばすような、情報発信の内容はあえて「愛媛限定」で売る、でもそこに世界中からアクセス出来るようなシステムやコンテンツが作れたらいいなと間がています。

    今はイベント単位の発信だけになっているような気がするので、たとえば「アートとは何か」とか「これはアートなのか」とか「これをやる意味は何か」とか、もう少しQaCoAの理念的なものも発信していいと思います。あまり今は大っぴらには人を募っていないけど、それもやっていいんじゃないかな。人が入ってくると場は活性化されるので、QaCoAがもっと刺激的になるといいですね。

  • 竹内仁美(ロン文庫/三帆堂店主)

     

    私は元々美術館やアートイベントに行くのが好きで、関西の大学に行っていた頃から、アート関連のイベントのボランティアやギャラリーのバイトなどをしていました。松山に帰ってからも何かアートに関わりたいと思っていたところ、「道後オンセナート」がちょうど始まる年だったため、ボランティアとして登録して少しだけお手伝いをしていました。その頃から QaCoA の存在は知っていましたが、実際に入ったのは 2018 年の春頃で、QaCoAメンバーの玉井さんのアトリエで誘われたことがきっかけです。最初は自分に何ができるのか分かりませんでしたが、活動を通じて色々な方と知り合えたり、自分の知らないアートに関する情報を教えていただく機会も多く、知識も繋がりも広がったので、参加してよかったと思っています。

    在籍年数が短いので、関わったイベントはそれほど多くありませんが、 2018 年 12 月に浅井裕介さんのワークショップ(「アートと遊ぼ in 道後」)のお手伝いをしたことが印象に残っています。子どもたちが広場で絵を描いたり、自由に動き回ったり、のびのびとアートに触れ合っているのを見てすごく楽しく嬉しい気持ちになりました。みんなで描いた絵を浅井さんが一つの大きな作品にしていく過程を間近で見られたことも、良い経験になりました。

    団体としての QaCoA は、様々な経験やスキル、考えを持った方がいて、それぞれが各々のペースで参加できるところが良いなと感じています。私自身はQaCoA以外の活動として、ブックマルシェなど本にまつわるイベントの企画運営をしたり、「NPO法人松山こども劇場21」のお手伝いなどもしています。自分が表現者として作品などを創作することはできませんが、「何か表現したい人の活動を支援する」という意味では、QaCoA のスタンスが私にも合っているかなと感じています。

    これからの活動としては、単発でその日数時間だけで終わってしまうイベントではなく、シリーズで長期間取り組めるチャレンジもあれば面白いのでは?と思います。その中で、QaCoA 自体の存在、アートの中間支援をしている団体の存在も知ってもらえる機会があればいいなと。また、アート以外にも、本や演劇など「日々の生活を豊かにするもの」に、触れてもらう場や機会をもっと作っていければと思っています。松山でもまだまだ届いていない層はあると感じていますし、何か難しいものというような垣根をなくしていけるよう活動を続けていきたいです。

    とは言えアートに関してもまだ知らないことが多く、QaCoAのミーティングなどでも自分の意見を持って発言するのは難しく感じている部分もあります。もう少し自分のやりたいことのために QaCoA という場を使っていけるようになりたいとも思っています。

  • インタビュー:カコアについて(アーティストの立場から) 山内知江子(アニメーション作家・美術家)

    人形や様々な素材を使ってアートアニメーションを作っています。日本の美大を卒業後、人形アニメーションの勉強がしたくて、チェコに留学してプラハ国立芸術アカデミーで本格的に学びました。チェコの人形アニメーションは一コマずつ人形を動かして撮影していくため、制作には膨大な時間やお金がかかってしまいます。チェコアニメーションは旧国営のアニメーションスタジオでも多くの名作が制作され、チェコアニメという総称があるほどに世界的に評価が高く、大切な文化として継承されています。

    チェコから帰国後すぐにQaCoAから、yummydanceと共作で作品を作って欲しいという依頼を頂きました。それと前後して、プラハでの卒業制作の松山公演をしたのが、当時QaCoAの活動拠点であった三津浜のアート蔵でした。その時の印象はQaCoAのようなアートNPOがあるということに驚き、当時はとても活気付いていて面白いことを発信していた印象があります。それ以降も、三津浜や中島で、QaCoA主催のイベントやワークショップに招聘していただきました。

    また、現在は「Hanbun.co」というアニメーションとダンスのパフォーマンスユニットでも活動しており、舞台美術としてのアニメーションも制作しています。

    パフォーマンスではなくアニメーション作品を作る時も、非劇場型の場所を指定されての依頼が多いので、その場所にあるものや時間、テーマを大切にしたサイトスペシフィックな作品制作をしています。それ以外には自分自身のフィーチャーフィルム作品をじっくりと作ることを日々構想しています。コマ撮りアニメーションはとても制作に時間がかかるので、なかなか長編作品を作るのは難しいのですが、実現したいと思っています。

    QaCoAとの関わりを通して、メンバーの皆さんはそれぞれ仕事を持ちながらのボランティア的な関わりなので、作家としては少々戸惑うこともありました。中間支援という立ち位置、作家としてどこまで頼って良いのか、作品制作に中間支援者がどこまで関わってくるのか、何となくあやふやなままの時もあり、放ったらかされた印象もあります(笑)。

    今後QaCoAには、何となく今はエネルギーが弱く、「待ち」の姿勢を感じてしまうので、アート蔵をやっていた頃のように、QaCoA発信の面白い噂を聞けることを期待しています。せっかくのこれまで蓄積されてきた知識、技術、経験や人材などを活用し、助成金ありきだけの活動ではなく、「やりたい」をどのように形にするかを考えていって欲しいと思います。特に地方都市でのアート中間支援活動は、世界の状況からも必要度は高まっていると思います。QaCoAがこれから何をテーマにしていくのか、楽しみにしています。

  • 団体プロフィール

    NPO法人 クオリティ アンド コミュニケーション オブ アーツ(アートNPOカコア)

    2004年に設立。アートと地域の橋渡しを行い、創造性豊な人と地域社会の実現を目指したNPO団体として発足し、現在20名の多彩なメンバーで構成。アートプロジェクト、ワークショップ、シンポジウム、映画祭など様々なプログラムを展開している。

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