松山ブンカ・ラボ

JOURNAL

特集記事

2020.12.07 UP
VOL.
020
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【特別寄稿】大学と自治体による地域文化振興~地域アーツカウンシルの視点から

伊藤裕夫(文化政策研究者)

  • 地域アーツカウンシルが抱える問題や成り立ちに触れつつ、文化財団等では担うことのできない役割が、自治体と大学が連携した松山ブンカ・ラボにあると伊藤氏は指摘します。
    自治体少子化が続く中での大学が生き残っていくためには教育・研究に加えて地域への貢献が重要視され、そこに地域のコモンズ(共有財産)がどう活かされていくのでしょうか。松山ブンカ・ラボの試みを今いち度一緒に考えてみましょう。

    (松山ブンカ・ラボ 松宮俊文)

  • 最近は新型コロナウィルス問題もあってほとんど耳にすることが減ったが、ひところ文化関係者の間では「地域アーツカウンシル」が話題になっていた。「地域アーツカウンシル」とは、地域の文化芸術活動への支援・助成や調査研究等を担う専門性を有する組織のことで、今年2月、横浜市で開催されたTPAM(国際舞台芸術ミーティング)でのフォーラムによれば、名称はまちまちだが現在全国で12の自治体に設置されていて、10の自治体で検討中とのことという。

    これらの「地域アーツカウンシル」の多くは自治体系の文化(振興)財団の中に設置されているのだが、考えてみると文化財団は本来、現在の「地域アーツカウンシル」に求められている役割を担うべく設置されたものではなかったのか、という疑問が起こってくる。

     

    [松山ブンカ・ラボ] 美術家・土谷享氏による松山リサーチプロジェクトの様子(2020)

    現在、多くの文化財団はその自治体が設立した文化施設の指定管理者になっている。というのは、2003年の地方自治法第244条の改正以前は公立文化施設等の「公の施設」は自治体の出資法人等しかその管理運営を託すことができないようになっていたからで(そのために設置された文化財団も少なくない)、指定管理者制度が導入されてからも文化財団は民間事業者との競合もあってますます施設の管理運営に専念するようになり、地域全体の文化振興に関わる予算や余裕も無く、人材も育たなかったからである。

    また他にも、設置自治体からの非独立性、すなわち予算をはじめ人材的にも自治体からの出向者やOBの再雇用の場となる傾向が少なくなく、専門家組織として自律した意思決定ができない状態も「地域アーツカウンシル」的な役割を果たせなかった理由だろう。そもそも「アーツカウンシル」とは、第二次大戦後英国において誕生した文化芸術の助成機関であるが、創設に当たってそのあり方の基本とされたのが政府からの「半独立性(semi-autonomous)」(政府からの資金をもとに活動するので政府による一定のチェックはあるが、基本的には専門家集団として政府から独立して意思決定を行う)で、その時モデルとされたのは大学やイングランド銀行であったと言われている。

  • こうした状況を見ると、いま松山で試みられている、自治体と大学が連携して進めている「松山ブンカ・ラボ」は、きわめて注目すべき動きだと思われる。確かに「松山ブンカ・ラボ」は「地域アーツカウンシル」を目指すとは言っていないものの、実際にやっていることは、経済的な意味での「助成」こそあまりできないとはいえ、大学らしく地域の文化芸術活動の担い手たる人材育成を軸に、文化芸術活動のネットワークづくりや調査研究など、「地域アーツカウンシル」と共通する活動に取り組んできた。

    [松山ブンカ・ラボ] シンポジウム「文化芸術はまちがつくる~公共性とは何か?市民協働とは何か?」に登壇する伊藤氏(2020)

    [松山ブンカ・ラボ企画協力] ことばのちから2020 ことばのインスタレーション「かえりみちをつくる」美術家・牛島光太郎氏によるワークショップ「知らない家族のつくり話」の様子(撮影:元屋地伸)

    いま少子化が続く中で、大学の役割が問われるようになって久しい。大学が生き残っていくためには、特に地方の大学においては、教育・研究に加えその地域への貢献が重要視されてきていることはご案内のとおりである。地域貢献には、産業振興や医療など様々な分野があるが、人々の精神生活をより豊かにし、地域社会を元気にしていくためには文化芸術の果たす役割も大きい。そのためには文化芸術を個々人の趣味・教養としてだけでなく、それらの活動や成果を文化的なコモンズ(共有財産)として活かしていくことが必須となる。

    いま松山市と愛媛大学が取り組んでいるこの試みが、地域の文化芸術の振興にとっても、また今後の大学のあり方にとっても先進的な事例になる事を期待したい。

  • 執筆者プロフィール

    伊藤裕夫
    文化政策研究者

    1948年生まれ。東京大学文学部卒業後、広告会社、シンクタンクを経て、2000〜2006年 静岡文化芸術大学教授、2006〜2011年 富山大学芸術文化学部教授。現在は、静岡文化芸術大学、立教大学等の大学院で非常勤講師のほか、神奈川県文化芸術振興審議会会長等を務める。専門は、文化政策、アートマネジメント。近著に、『公共劇場の10年』(共編著・美学出版、2010)、『芸術と環境』(共編著・論創社、2012)など。

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