松山ブンカ・ラボ

JOURNAL

特集記事

2020.02.28 UP
VOL.
011
column
こどものためはおとなのため
〈こどもの表現を考えるラボ〉を切り口に

戸舘正史(松山ブンカ・ラボ ディレクター)

  • なぜ子ども向けのプログラムをやるのか?

    松山ブンカ・ラボでは子どもたちを対象とした〈写真をとってつかってそうぞうして、お話づくりワークショップ〉(2019年12月28、29日)と連動しておとなのための〈こどもの表現を考えるラボ〉を実施しました(2019年12月9日、2020年1月20日@シアターねこ)。いずれのファシリテーター(進行役)も俳優で演出家の有門正太郎さんです。

    〈こどもの表現を考える〉とは、なんだかわかるようなわからないような、真面目な感じですね。もちろんこれはブンカラボが有門さんと〈こどもラボ〉プログラムのコーディネーターである阿比留ひろみさん(あひるタイガ社)に提案した企画です。松山市の場合は、公共ホール(いわゆる市民会館や県民会館のような)や美術館、博物館がこのような子ども向けのエデュケーション事業を積極的かつ体系的に実施していない状況もあり、地域の文化的コンテンツを補完するという観点から、ブンカラボは「こども」を活動の大切なテーマのひとつに掲げています。
    〈お話づくりワークショップ〉の風景(2019年12月28@シアターねこ)

  • ひとりひとりがまちを広場にしていくために

    ブンカラボは場所を持っていません(もちろんオフィスはありますが)。ホールや劇場のように人が集まり通り過ぎるパブリックスペースを持っていないブンカラボですから、まちを大きな広場=パブリックスペースとして見立てるほかありません。でも、ブンカラボって実は、ディレクターひとりしか専従スタッフはいないんですよ(しかし、めでたいことに2020年5月よりスタッフがひとり加わります!)。いわば、「ひとりラボ」なわけですが、ブンカラボだけでは、この広いまちで様々なプログラムを展開することなどは不可能です。

    8月に開催した〈防災ワークショップ〉の様子。こちらのファシリテーターは美術家の土谷享さん。

    そしてそもそも、ブンカラボは「中間支援」を謳っています。「中間支援」の仕事は、市民の活動を物心両面で後方支援したり、市民同士のニーズやノウハウをマッチングさせたり、あるいはさまざまな活動がしやすい環境や仕組みを作っていくことです。この点については「シアターねこしんぶん」に書きましたので是非一読くださいませ(シアターねこしんぶんvol.66『干し椎茸を戻すように~中間支援組織としての松山ブンカ・ラボ』http://theaterneco.main.jp/?p=4522)。

    〈お話づくりワークショップ〉での光景。そっとティッシュを渡す。(2019年12月29日)

    よって「中間支援」を担うブンカラボとしては、子ども向けのプログラムをいつまでも自前で行っていくというのは避けたいことですし、現実的に不可能であるということです。むしろ、たくさんの担い手、当事者、プレーヤーが規模の大小問わず、あちらこちらで勝手に始めてくれる状況が生まれるとよいなぁと考えています。もちろん、現在でも松山では在野でこうした活動をしている方々がたくさんいます。中ムラサトコさん、yummydance、Hanbun.coのようなアーティストたち、ツインクル・プランやワークライフコラボなどの団体など、公立文化施設があまり手掛けていない状況への反動としてユニークな子ども向けアートプログラムを折々に体験できる環境にあるとも言えます。でも、もっとあればよいのに、もっとやるひとがいればよいのにと思うのです。

  • おとなのための子どもプログラム

    旗を掲げてチラシをつくって人集めて「やろう!」じゃなくてもよいんじゃないでしょうか。わたしやあなた、近所のおじさん、おばさん、あるいは一緒に暮らしているひとが、小さな単位で、ひとり対ひとりでもよいから、何かを始められるようになればよいと思っています。良い子や悪い子を演じなくてよかったり、答えを出さなくてよかったり、世界が束の間ちがって見えたりする、そんなふうな場所や時間があるとよいなぁというのが、ブンカラボのちょっとしたこだわりです。なぜなら松山ブンカ・ラボは「ひとりひとりの表現や生活を大切にする社会づくり」を目指しているからです。そのために、世界や物事や他者への優しさを子どももおとなも持ってた方がいいじゃないですか。いいに決まってます。

    ですから、そんなことをいろいろ考える機会を、おとなのためにつくろうと企画したのが〈こどもの表現を考えるラボ〉です。有門正太郎さんの類まれな寛容性は恐れ入るほどで、社会にあるノイズというかストレスのような要素をすべて面白がる性癖を持っているのが有門さんです。それはすべてを引き受けるというメンタリティでもあって、子どもと向き合うときの有門さんは、子どもが絵本を「読んで読んで」とせがむときのように、有門さん自身が子どもに「もっともっと」とせがむかのような、普通の子どもとおとなの関係の逆転が起きています。

    そんなふうな有門さんをファシリテーターにして、子育てをしているひと、教育の現場にいるひと、子どもとなんかしたいアーティストなどが集まって、ワイワイと話したら、そのうちなにかカタチになるんじゃないかという見切り発車のプログラムが〈こどもの表現を考えるラボ〉でした。
    このような茫洋として曖昧なタイトルにもかかわらず、2回とも20名を超える参加者が集まりました。そして想定しなかった看護師の方やお父さんなども参加し、そこに読み聞かせ名人、図書館司書、美術教室の先生、芸人、俳優、ダンサー、公務員、学生など、およそ一堂に会す機会がなかなかなさそうなおとなたちが集まりました。

    有門さんは、初回に全員の話を訊きました。時間はかかるけど、全員です。「なぜ参加したか?」「こどもと何かしているか?」。ひとりひとりの話にみんなが耳を傾けます。また、有門さんが子どもたちにやっているワークショッププログラムを体験することもしました。都度都度、有門さんはなぜこのゲームをするのか、このワークの意味は何か、ということを説明していきます。

    「椅子取り鬼ごっこ」で参加者に答えのない問いかけをする有門さん(2019年12月9日)

    二回目にはグループに分かれて、子どものころの話や各々活動等を共有するという時間を持ちました。世代も職業も違うひとたちが、子どもや表現を糸口に関係をつくり、ゆるやかな社会が会場のシアターねこに立ち現れるような不思議な時間で、何かが生まれるザワザワした予感が場内を満たしていたような気がします。


    4つのグループワークで共有された話題たち(2020年1月20日)

    だから、ブンカラボでは〈こどもの表現を考えるラボ〉を続けていきます。これはなかなか面白い社会実験になりそうです。いや、実験というのは参加している皆さんに失礼ですね。なんというか、大きな民主主義を支える細胞がうごめいている。そんな感じです。どうなるかわからないけれど見切り発車の列車は走って行きそうです。

    (写真:浦川健太、池田晋作)

BACK NUMBER

バックナンバー