松山ブンカ・ラボ

JOURNAL

特集記事

2020.03.16 UP
VOL.
012
report
まちと文化とアートの学校2019 「学びの場を考える」
(ゲスト:豊島吾一さん/2020年1月25日)

越智孝至(NPO法人シアターネットワークえひめ)

  • ライブ、フェス、学校、場づくり

    参加している一人一人が心地よく過ごせる場所づくりを今治市でしている豊島吾一さん。アルバイトとライブ通い三昧の東京での学生生活の後、フリーターを経て眼鏡屋さんに就職。その後、祖父の死をきっかけに今治に戻ることになります。ちょうど塾を経営していた父親が、不登校の生徒らが高校卒業資格を取れる技能教育施設「今治高等学院」をつくろうとしていた時で手伝うことになったそうです。

    豊島さんの活動は今治高等学院だけではなく多岐に渡っています。東京での学生時代に聴きあさったような音楽ライブを企画することから様々な活動が始まっていきます。ライブは7年の間に70~80本を企画、運営。また、千葉や京都の友人から「音楽イベントをやりたい」と相談を受けたことをきっかけに、2013年から年に1回、今治の「市民の森」を会場にし、子どもも大人も楽しめる野外音楽フェスティバル「ハズミズム」を始めることになります。さらには、ハズミズムでできたつながりをもとに市街地に面白い拠点を作ろうと、友人とお金を出し合って商店街の空き店舗を借り、2016年から「今治ホホホ座」をスタート。ハズミズム的な「コト」を日常的に展開するコミュニティスペースを運営しています。ホホホ座では、松山のコンテンポラリーダンスカンパニー・yummydanceの路上プロジェクトやヘンテコ眼鏡づくりワークショップ、餅つき、好きな著者を招いた出版イベント、丹下健三の建築を使った「僕らの市民会館」、服のリメークワークショップなど、そのプログラムはバラエティに富むものです。そして2019年からは放課後等デイサービス「アマカラ研究室」を始めました。「障がい者支援をできる場所を作りたい」と考える知人の相談を受け、豊島さんも「高等学院に来る前の子どもたちも見てみたい」という思いから共に始まったそうです。

  • お互いの立場が対等であること

    いずれの活動にも共通しているのは、その場に参加している人同士の関係がフラットであるということです。例えば高等学院なら先生と生徒という関係がありますが、上下関係はありません。はじめのうちは「何か教えないといけない」と考えてプレッシャーになっていたようですが、今は「教えない」と豊島さんは言い切ります。生徒に何をやりたいか要望を聞いて、生徒の主体性に寄り添ってサポートするというやり方で生徒と向き合っているのです。すると生徒は「自分が何をしたいのか」を真剣に考えるようになるので、卒業後の進路が決まるのが早いと言います。生徒の中には「初めてきちんと勉強を教えてもらった。勉強は意外と楽しい」と気付く子もいるそうです。豊島さんは「教える者も学んでいる」と「学び」は相互関係であると強調します。

    アマカラ研究室でも同じで、小一から高三までの通ってくる子らとミーティングをして何をするかを決めることから始めると言います。お弁当を自分たちで作って出かけたりすることもあるそうです。スタッフ同士もとにかくミーティングを重ね、一人一人の子どもたちの調子を見て、起こりそうな問題について話しあい、目を行き届かせていると言います。「ミーティングして決めよう」が子どもたちの口癖になっていると言いますから、どれだけ対話を重ねているかということがよく分かります。こうした、互いがフラットな関係のなかで、場や機会をつくっていくというやり方はハズミズムでも活かされています。「一緒に場所をつくるために話し合いましょう」ということをアーティストに提案することから企画していくと言いますから、「お金を払いますから来てください」という通常の主催者とアーティストの関係とは根本的に違うものです。

  • 参加するみんなの楽しさを意識した場所

    お互いを尊重して場を作っていく豊島さんのいずれの活動も大きな方向性は設定しています。例えば、高等学院では「他人の違いを認めること」と「入学してきたときよりも明るくなって卒業すること」。ハズミズムでは「子連れのお母さんが気兼ねなく楽しく参加できること」と「お客さんと出演者とスタッフがキッチリ分かれるのではなく、お互いに一歩踏み込んで、心地よい場をつくること」。アマカラ研究室では「その子が伸び伸び過ごす中で見えてくる、その子が社会で生きるのに役立つ力を伸ばすこと」。どの方向性にも寛容な社会を欲する豊島さんの想いが込められているかのようです。

    今治になかったものを自分たちで作り出し、少しずつ交じり合っていく状況を作る豊島さん。ライブに出演するミュージシャンやダンサーが高等学院に来ることもあれば、高等学院の生徒が課外活動で祭りに出店したりホホホ座の手伝いに来ることもあるそうです。子どもたちは「変な大人」と接したりすることで、自分は自分でいていいんだと自信を取り戻していくと言います。最後に豊島さんは「(アマカラ研究室を)卒業した子のための職場も作りたい」と未来のビジョンも示されていました。

    質疑では知的障がいのある成人した息子さんがいるという参加者から「週末や夜に息子が行けるような場所が松山にほしい」という声がありました。豊島さんは障がいのある人は学校を出た後に身を寄せる場、コミュニティの選択肢が限られていることに触れ「障がいのある人だけの楽しさだけじゃなくて、参加するみんなの楽しさを意識した場所を作っていけたらいい」とコメント。松山ブンカ・ラボディレクターの戸舘正史さんは「図書館や美術館や公民館はそういう機能を担えるのではないか」と述べ、そうした場づくりを担える人材が育まれる環境を作っていく必要があるとブンカラボの展望を語りました。

    (レポート:NPO法人シアターネットワークえひめ 越智孝至)

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