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- column
- わからない社会と向き合うために
~シンポジウム『アートは社会の役に立つのか?』をひきながら
松山ブンカ・ラボ ディレクター/戸舘正史
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社会を構想するためのアート
11月3日に開催した松山ブンカ・ラボの事業キックオフとなるシンポジウム『アートは社会の役に立つのか?文化芸術とまちづくり』は、結論から言うと「どのような社会を構想したらよいだろうか?」という話し合いでした。それにしても「アートは社会の役に立つのか?」とは大きく出たものです。この問いに対して、役に立つとか、立たないとかというような答えを持つことはあまり意味がありません。なぜならこの大きな問いは、「アートをどのように規定するのか」、「社会とは何か」、「役に立つとはどういうことか」と因数分解できるし、そのひとつひとつに対する見解はいく通りも想定できるからです。さらに、今回のシンポジウムの副題には「文化芸術とまちづくり」とあります。すなわち、アートはまちづくりに役立つらしいという前提があるようです。そうなると「アートは社会の役に立つのか?」なる問い立てに向き合うとき、何より先に「まちづくり」というものをどのように規定するのかが必要になります。つまり「どういうまちを、社会を、私たちは描けるのかだろうか、アートを使って」ということなのです。だからこの問い立てにおいては、アートでなくとも描けるまちや社会を想定していてもしょうがないと言えます。景気の良い社会へとするためには、別にアートでなくてもよいのです。要するに「どんな社会のためならばアートが必要になるのだろうか」と考えることは、社会とアートの双方から歩み寄りながら、あるいはすり合わせながら、社会とアートの重なり合うところを探っていくということでもあります。
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違うことを認める視点
アートは異なるものを認めるところから始まります。例えばこんな経験はありませんか?子どもがふたり並んで絵を描いている。お互い画用紙を覗き合いながら描いている。出来あがった絵はふたつともそっくり。みんなと違うことを避ける。みんなと一緒がよい。だから互いに真似る。一様な価値観を共有する安心感は確かにあるものです。その一方で、そんな社会では、みんなと違うことが排除の対象となることだってあります。でも、みんなと違う絵を描いた子がアーティストになるんですよね。つまり、みんなそれぞれ違う絵であること、その営みや価値を認めてもらうことから、アートは始まるのだと思います。そして、そんな視点を持つためにアートがあるのではないでしょうか。
では、アートが必要となる社会とは、まちとは何でしょうか?それはやっぱり、寛容の社会です。マジョリティというものがあるのではなく、あるいは、マイノリティがあるのではなく、バラバラな価値観が一緒くたに同居し共生している社会です。政治だって、経済だって、「よりよい社会」にしていくために、善意で動いているものです。でも、政治は数のマジョリティで決せられます。経済は数の市場性で決せられます。わたしたちは、そういう理屈と機能を備えた社会で生きています。だからアートは、政治や経済がとりこぼしてしまう社会像と向き合うことができるかもしれない。社会とアートの重なり合うところとは、そのことなのです。 -
いろんな人のいろんな絵
しかしここで肝要なことは「どのような社会か」「アートとは何か」という問いには、こうあるべきとする答えは必要ないということです。答えを与えてしまったり、ひとつの答えを作ってしまったならば、真似っこする子どものような、みんな同じ絵になってしまいます。だから「どのような社会を構想したらよいだろうか?」という問いは、「ひとりひとりの社会の構想を、どれだけ担保していけるだろうか?」と読み替えてもよいでしょう。「わたしとあなたの考えている社会は違うかもしれないけれど、どうやったら一緒に生きられるだろうか?」というふうに噛み砕いてもよいですね。
パネルディスカッションでは素敵な二つの言葉が印象に残っています。「生まれたての価値に対する態度」(大澤寅雄氏)、「動的な価値の定まらない価値とどうやって向き合っていくか」(宮下美穂氏)という二人の発言は、アートへの向き合い方であると同時に、何ものかわからない、多様で重層的な社会との向き合い方でもあります。わたしたちは「わからないもの」は怖いものです。だから、排除してしまいます。
でも「わからないもの」との向き合い方は、アートへの向き合い方と同じではないかと気づいたならば、少しは気持ちが楽になるんじゃないでしょうか。アートは「わからないもの」と付き合っていくためのレッスンです。いろんな人が生きている社会を想像するためには、アートは、少しだけ「役に立つ」と、わたしは考えています。
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