松山市文化創造支援協議会

JOURNAL

特集記事

2019.08.29 UP
VOL.
003
report
防災ワークショップ「そのとき、自分だけは大丈夫!?っなワケないでしょ!」

戸舘正史(松山ブンカ・ラボ ディレクター)

  • 「正常性バイアス」と「考える・対話する・想像する・助け合う」

    8月18日(日)にシアターねこで開催した防災ワークショップ「そのとき、自分だけは大丈夫!?っなワケないでしょ!」は、美術家・土谷享さん企画のもと、俳優で演出家の高山力造さんの協力を得て演劇的要素が加わり、こどもたち自身が考え行動するシミュレーション型ワークショップに仕上がりました。

    土谷さんがはじめにこのプログラムに設定したコンセプトは、災害時の「正常性バイアス」を克服するということでした。災害時に平常時と同じように「これくらい大丈夫だよ」という「正常性」が甚大な被災の引き金になっていると言われています。またもうひとつのコンセプトは、こどもたちが自分たち自身で考え、対話し、他者を想像し、合意形成をとっていくこと。防災という限定的なテーマを設定しつつも普遍的なアートワークショップとしていくことを目指しました。

  • 避難する⁉ しない⁉

    まずはじめに互いに仲良くなるためにゲーム(シアターゲームと言われる演劇的手法を用いたコミュニケーションゲーム)を楽しみます。

    そこに津波警報が発令!「となりの神社に避難しよう!」と土谷さん。一方、高山さんは「平気だよ。海から遠いし、まだ一緒にここで遊んでいようよ」とこどもたちに声を掛けます。ここで、避難するか、留まるかをこどもたちは選ぶことになります。

    東雲神社へ避難するこどもたち。

    留まったこどもたちは引き続きゲームに興じます。

    神社に避難したこどもたちは応急手当のレクチャーを受けています。

    避難せずに留まったこどもたちには津波オンナが襲来!

    「普段と同じように平気な感じでいると被害にあってしまうんだ」と高山さん。

    ではみんなでケガ人に扮しよう!ケガのメイクをしよう!

    高山さんを家具の下敷きにしよう!

    避難組が戻ってきたらこんなありさま!

    さあ、大変!レスキューしなきゃ!学んだ応急処置でみんなを助けるよ。

    救護室に運ぼう!

    下敷きになっている人がいる!助けなきゃ!

    さあ次は避難所シェルターづくり!

    避難所でみんなが眠っていると、YouTubeの動画の音が聴こえてきます。「うるさいよ!」「でも不安でこの動画を見ないと眠れないんです」。さて、どうしよう?

    さあ食事の時間です。

    でもここでもまたトラブルが!「ぼくのご飯が少ない!こっちの人の方がお皿も大きくてずるい!」。さて、どうしよう?

  • フィクションとノンフィクションの間を揺れる

    避難したこどもたちは「なんで避難しないんだよ!」と本気になって怒っていました。留まったこどもたちも、メイキャップでケガ人に扮することで被災者になり切ります。あらかじめ設定しておいたトラブルでも、まるで学校のクラスでのもめ事のように当事者としていろいろ考えます。トラブル時の対話においては正解は設定していませんでした。トラブルの原因となった当事者の立場もさまざまであれば、トラブルと距離のある非当事者もいます。それぞれの立場に寄り添って対立や衝突が起きないように、ひとりひとりの意見や考えに耳を傾けるということをしました。

    演じることや仮想の状況を理解すること、他者の困りごとを自分のこととして考えることなど、いずれも想像する力や表現する力が求められてきます。こどもたちは、まるで虚構と現実の間を無意識に行ったり来たりしているかのようでした。

    土谷さんは「アートと日常がシームレスとなっていた」と振り返ります。土谷さんにとっても初めての試みとなった今回のワークショップは、災害という現実的なテーマを用いながら、普遍的なコミュニケーションと生活のなかに根差した「表現と技術」=「アート」を体験できるプログラムになっていたと言えるのではないでしょうか。来年もお楽しみに!

    企画:土谷享(美術家・KOSUGE1-16)
    制作:松山ブンカ・ラボ
    演劇ファシリテーション:高山力造、兵頭美咲(世界劇団)、左京風香
    スタッフ:阿比留ひろみ(あひるタイガ社)、池田晋作(松山市役所文化・ことば課)、浦川健太(松山市役所文化・ことば課)、村田亘
    記録撮影:池田晋作(松山市役所文化・ことば課)
    協力:鈴木美恵子(シアターねこ)

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